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火の手
そんな寛いだ二人に、焦げついた臭いが漂ってきたのはそれからすぐのことだった。それと同時に下から煙が上がってきた。
「さら⁈」
異変を感じて、慌ててひろみが階下の自分の部屋に駆け降りた。まゆも、それを追いかける。
ドアからは濛々と白い煙がたち、すでに火が吹き出してきていた。
「さら!!!!」
ドアノブも熱くなって触れないほどなのに、火傷も怯まずひろみは体当たりしてゆく。遠くからは、消防車のサイレンが聞こえたように思うがそんな事を確認するより先に、身体が動いていた。
ドアの向こうは、火の勢いが激しくそれでも飛び込もうとしたひろみを、まゆが力づくで押し留めた。
「ひろみ!だめだよ!!」
「だって、さらが!さらが中にいるのよ!!さら!さら!さら!!!離して、離してよまゆ!!離して!!誰か!誰かさらを助けて!!」
飛び込もうとしてパニックとなって暴れるひろみを、近所の人達も止めに入った。
もう誰も、手出しのできるような状態ではなかったからだ。安いアパートは、焚き木のようにあっという間に燃え広がっていった。
消火するのには数時間がかかり、結局アパートは全焼して鎮火した。
焼跡からは、ひろみの大切な一人娘のさらと、一羽の小鳥が炭のようになって発見された。
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