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「オレのことをちゃんと知ってもらう。知った上で、嫌いか好きか、判断してもらったらええねん。だから、ちゃんと知ってもらうまで、オレは声かけ続けるねん」
想太が言った。
まだ事務所に入って間もなかった頃、想太と琉生は練習生の段階をすっ飛ばして、いきなり研修生からのスタートだった。だから、時間をかけて、やっと研修生に上がった一部の先輩たちからは、『親の七光り』『生意気』などなど、聞こえよがしにいろいろ言われた。直接、何かされるわけではなかったが。
想太は、父親が同じ事務所の妹尾 圭であること、琉生は事務所は違うが有名な俳優の息子だということで、贔屓されている、という見方をする者もいたのだ。
先輩たちは、巧妙に主語を省いて悪口を言う。だから、言わないでほしいと頼むことさえできない。
「オマエらのことじゃないし。何言ってんの?」
そう言われるのがオチだ。
想太も琉生も、それなりに覚悟していた。それでも、やはり、冷たくされることが続くのは、けっこうきつい。
琉生は、父の事務所が違うこともあり、想太ほどきつく当たられることはなかったが、琉生は想太がいなかったら、そんな空気に耐えられたかどうか自信はない。
(あの人のようになりたい)
あの日の思いと、想太の存在が、琉生を支えたと言ってもいい。
そんな日々の中で、想太が言ったのだ。
「オレのことをちゃんと知ってもらう。知った上で、嫌いか好きか、判断してもらったらええねん。だから、ちゃんと知ってもらうまで、オレは声かけ続けるねん」
そして、彼は笑顔で、どんどんその先輩たちに声をかけていったのだ。毎回の挨拶も、分からないことを訊くときも、ちょっとしたおしゃべりも、とびきり可愛く明るい笑顔で。無視されてもひるまずに。
琉生も、精一杯、そんな想太に倣った。
はじめのうち、わざと無視されることもあったが、パワー全開で小さな子犬が嬉しそうに懐いてくるみたいな想太を見て、いつまでもそっぽを向ける人はいない。
徐々にその先輩たちの態度は変わっていった。優しくされるまではいかなくても、笑顔には笑顔が、ふつうに返ってくるようになった。
ある日、想太と琉生に冷たくしていた先輩グループの中心人物が、想太に言ったのだ。
「オマエには負けるわ」
そして、彼は想太の髪をクシャクシャとなでて、
「オマエ、可愛すぎ」
そう言ったのだ。
あのときの、想太のはじけるような眩しい笑顔を、琉生は忘れられない。
それ以降、レッスン室の空気ははっきりと変わった。みんなで気持ちを一つにして、いいステージを作り上げよう、そんな想いが表れたパフォーマンスに、ぐんぐん変わっていったのだ。
――――嫌いも好きも、相手をちゃんと知ってから。知りもしないで、決めつけないこと。
琉生の心に、あの日の想太の笑顔が浮かぶ。
琉生は、手をあげた。黒板の前に立つ、学級委員に言う。
「僕も、やります。図書委員」
クラスが大きくどよめいた。
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