12. 心に近づく一歩

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「僕の友達も、関西弁、話してるよ。大阪が好きやから、関西魂忘れたくないねん、って」  琉生の言葉に、ところどころ関西弁が混じる。 「……そうなんだ……そうだよね。……なんかね、こっちへ来て最初に、ちょっといやな思いしたことがあって。それで話すの、なんだか怖くなって。なるべくしゃべらんようにしてて」 「そんなこと言わずに、どんどんしゃべってや。僕、関西弁好きやし」  琉生は、ほほ笑んだ。  切れ長の涼しい目元。黒い瞳がきらめく。唇の両端を少しあげて笑う、綺麗な歯並びの口元が美しい。さらりと斜めに額を横切る前髪は少し長めで、形のいい眉にかかっている。  至近距離で、その笑顔の威力をまともに受けて、織田が頬をあかくしてうつむいた。  図書館の中が、今度はハッキリとざわめく。  ドラマやライブのステージで、画面を通して見る笑顔ではなく、生で目の前にいる琉生の笑顔だ。  あちこちに佇んでカウンターの琉生の様子をうかがっていた子たちが、うわあ……。とため息のような声を上げる。  そのとき、カウンターの奥の書庫から、先生が出てきた。図書委員会担当で、司書教諭の先生だ。 「ん? なんかあった?」  カウンターにいる2人に言った。 「いえ、別に。何も」  琉生が応える。 「そう? なんか一瞬ザワザワしてたから」 「大丈夫です」 「そう、じゃあ、カウンターはまかせるね。こっちで作業してるから、なんかあったら呼んで」  先生は、すぐに書庫に戻った。     先生が顔を出したので、図書館は、落ち着かない空気ながらも、静かな状態に戻った。 「……お仕事、しましょう」  織田が言って、琉生もうなずく。  返却された本を棚に戻す作業、カウンターでは、貸し出しと返却の受付、そして、レファレンスの仕事がある。  レファレンスは、本に関する問い合わせに応えて、本を探す手伝いをする仕事だ。  琉生たちのクラスの、前期の図書委員たちがボヤいていたのが、その仕事のようだ。  どうしてもわからないときは、司書の先生に聞くこともできるが、自分が訊かれたものなら、やはり、自分で答えたくなるものだ。とはいえ、見当もつかない質問には答えようがないから、できるだけややこしいことは聞かないで、と思う気持ちもわかる。 「あの」  ひとりの女子生徒が、カウンターにやって来た。1年生の学年の色のクラス章をつけている。 「……ずっと、探している絵本があって」 「はい。どんな本ですか。題名とかわかりますか」  織田が、嬉しそうにその子を見ながら答える。 「お姫様がでてくるんですけど。なんか可愛くない、意地の悪いお姫様の話で。あ。でも最後には優しい子になるんですけど。題名忘れてしまって。小さい頃に一度だけ、親戚のうちで読んでもらったことがあって」  織田はうんうんとうなずきながら話を聞いている。  「白っぽい表紙で、オレンジ色かピンク色か、よく覚えていないけど、淡いやわらかい色の、ふわっとした絵で」   (ん……。それってもしかして)  琉生の頭に、一冊の絵本が浮かぶ。姉のレイの部屋で、見た記憶がある。  あれかも?  思わずその題名を口にする。 「みにくいおひめさま」 「みにくいおひめさま」  2人ほぼ同時に声が出た。ほんの一瞬、織田の方が早かったかもしれない。
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