14. けっこう、いいやつ

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「……自分から変えられるものは、ちゃんとある、か」  琉生がつぶやくと、織田が照れくさそうに笑った。 「あ。なんかカッコつけたこと言うてしもた。適当に聞き流して……ごめん。私、なんかしゃべりすぎてるよね?」 「ん? いや。面白かったよ」  琉生がほほ笑む。織田がホッとした笑顔になる。  ちょうど校門のところに来たので、2人は一瞬立ち止まった。 「じゃあ、私こっちなので」 「僕は、こっち」  お互い反対の方向を指さす。 「今日は、ありがとう。……楽しかった」  琉生が言う。 「こちらこそ、ありがとう」 「また、本の話、聞かせて」 「うん」  軽く手を振って、それぞれの方向に歩き出す。    織田は、本の話を始めると、琉生がアイドルだとか、もうそんなことは意識もしないらしい。それが心地よかった。だから、今日、琉生は、女子と話していても、気を遣うことなく普通に楽しかった。  いつも女子と話すときは、ほとんどの場合、彼女たちは、琉生をアイドルとして意識しているのが伝わってくる。もちろん、あまり表だってそんな雰囲気を出さないよう、みんな普通に接しようとしている。でも、琉生自身は微妙にそれを感じ取ってしまう。自意識過剰なのかもしれないが。    一度、想太にそんな話をしたことがある。  彼は笑って、 「そやな。オレの自意識過剰かもしれへんけど、なんかそんなん感じるとき、確かにあるな。でも、だんだん慣れてきたら、もうそんな気ぃつかうとか関係なくなって、普通にしゃべってくるし。あんまり、クラスにおるとき、自分がアイドルとか、周りがオレのことアイドルと思ってるとか、あんまり気にならへん」  そう答えた。  彼には、周りの人をまるごと、ふわっと両手を広げて迎え入れるようなところがある。自分に冷たくする人にだって、彼の扉は開いている。そして、いつしか、みんな彼の扉をのぞいて、その世界に引込まれてしまう。 『想太マジック』――――いつだったか、想太の幼なじみの女の子、みなみがそんなふうに言っていた。  琉生は、秘かに、そんな想太を真似しているのだ。正直、演じていると言ってもいい。  そんなことを知らない人たちは、想太も琉生も、2人とも人懐こくて、社交的だ。いいコンビだなんて言う。  本来の琉生は、もっと臆病で、神経質で、少し人が苦手だ。    でも。 『コンプレックスの中にうずくまっていないで、自分から変えられるものはちゃんとある』  織田の言葉が、琉生の頭に響く。  まさに、これまで、琉生がそう思ってやってきたことだった。 (あいつ、けっこう、いいやつだな)  琉生は、心の中でつぶやいて、今日帰ったら、レイから、例の本を借りよう、と思った。  レイからレイのほん。……ダジャレ?  ふふ、と1人で笑って、琉生は少し足を早める。
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