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「……自分から変えられるものは、ちゃんとある、か」
琉生がつぶやくと、織田が照れくさそうに笑った。
「あ。なんかカッコつけたこと言うてしもた。適当に聞き流して……ごめん。私、なんかしゃべりすぎてるよね?」
「ん? いや。面白かったよ」
琉生がほほ笑む。織田がホッとした笑顔になる。
ちょうど校門のところに来たので、2人は一瞬立ち止まった。
「じゃあ、私こっちなので」
「僕は、こっち」
お互い反対の方向を指さす。
「今日は、ありがとう。……楽しかった」
琉生が言う。
「こちらこそ、ありがとう」
「また、本の話、聞かせて」
「うん」
軽く手を振って、それぞれの方向に歩き出す。
織田は、本の話を始めると、琉生がアイドルだとか、もうそんなことは意識もしないらしい。それが心地よかった。だから、今日、琉生は、女子と話していても、気を遣うことなく普通に楽しかった。
いつも女子と話すときは、ほとんどの場合、彼女たちは、琉生をアイドルとして意識しているのが伝わってくる。もちろん、あまり表だってそんな雰囲気を出さないよう、みんな普通に接しようとしている。でも、琉生自身は微妙にそれを感じ取ってしまう。自意識過剰なのかもしれないが。
一度、想太にそんな話をしたことがある。
彼は笑って、
「そやな。オレの自意識過剰かもしれへんけど、なんかそんなん感じるとき、確かにあるな。でも、だんだん慣れてきたら、もうそんな気ぃつかうとか関係なくなって、普通にしゃべってくるし。あんまり、クラスにおるとき、自分がアイドルとか、周りがオレのことアイドルと思ってるとか、あんまり気にならへん」
そう答えた。
彼には、周りの人をまるごと、ふわっと両手を広げて迎え入れるようなところがある。自分に冷たくする人にだって、彼の扉は開いている。そして、いつしか、みんな彼の扉をのぞいて、その世界に引込まれてしまう。
『想太マジック』――――いつだったか、想太の幼なじみの女の子、みなみがそんなふうに言っていた。
琉生は、秘かに、そんな想太を真似しているのだ。正直、演じていると言ってもいい。
そんなことを知らない人たちは、想太も琉生も、2人とも人懐こくて、社交的だ。いいコンビだなんて言う。
本来の琉生は、もっと臆病で、神経質で、少し人が苦手だ。
でも。
『コンプレックスの中にうずくまっていないで、自分から変えられるものはちゃんとある』
織田の言葉が、琉生の頭に響く。
まさに、これまで、琉生がそう思ってやってきたことだった。
(あいつ、けっこう、いいやつだな)
琉生は、心の中でつぶやいて、今日帰ったら、レイから、例の本を借りよう、と思った。
レイからレイのほん。……ダジャレ?
ふふ、と1人で笑って、琉生は少し足を早める。
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