【短編読切ホラー】殺人お届けします

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「鈍器で後頭部を一撃って感じですね」    殺人現場のアパートの一室で、佐藤と後輩の御手洗(みたらい)は、マジマジと調査報告を見ながら、呟いた。男二人に差し掛かる窓からの西日は滞在する部屋の室温をさらに上げ、耐えきれないとばかりに御手洗はシャツのボタンを一つ外し、ぐいと汗をぬぐう。 「先週もありましたよね、この近くで殺人が。続きすぎて気持ち悪いです。呪われてません? この町」  佐藤たちの管轄では、この一か月ですでに三件目の殺人事件が起きていた。犯人が逮捕されたのが二件、うち一件は容疑者を絞るため捜査中である。   「呪いの類ならまだマシだよ。殺すのはいつだって生きた人間だ」 「そういって、ここまで続くもんですかね? お祓いにでも行きたい気分ですよ、俺」 「お祓いが何の役に立つっていうんだ。どうせ凶器はそこのガラス製の灰皿だろ? 血痕も指紋もベッタリ、間違いなく生きた人間のしわざだ。それよりも」  佐藤も伝う汗の気持ち悪さから、思わずシャツのボタンをひとつ外した。現場をぐるりと見渡すと、争ったであろう遺体の周りには、さまざまなものが散らばっていた。空き缶、ペットボトル、手紙やチラシ、新聞紙に加えて吸い殻と写真だ。  佐藤は舌打ちをしつつ汗ではめづらいゴム手袋をし、赤い封筒からはみ出ていた写真を手に取った。 「お、先輩。なんですか? イイ感じの写真とかあります?」  御手洗が興味津々といった表情を浮かべながら覗き見る。 「あちゃー、やっちゃってますねー。いろんな意味で」 「よくある二股、ってやつか」 「今回の被害者は若くて美人だったから、ですかねぇ。別れ話の拗れか、はたまた怨恨か。俺の予想では、どちらか一人に決めないから本命の男に殺されたんですよ、きっと! 愛する彼女が他のヤツと……なんて、こんな写真みせられたら、俺だって殺したくなっちゃうかもしれないッス。万死に値するね」  とんでもないことをサラッというが御手洗にそんな度胸などあるはずはないーーと佐藤はそう考えながら、じっくりと内容を確認するべく写真へと目を通した。写真をさらにめくっていくと、どうやら二股どころか、もう少し関係を持っていた人間はいそうな雰囲気であった。詳細は後でいいだろうと写真はビニール袋に入れる。気になるのは、写真は隠し撮りされていたかのような構図だったことだ。誰が、これを撮影したのだろうか。  「どうかな。撮影の雰囲気からして、ストーカーかもしれんがな」  二人はひとまず水分補給をしようと玄関からでたところで、タイミングよく出くわした配達員を捕まえ、そのまま事情を尋ねた。ポストにDMを入れていた最中らしく、暑いのに勘弁してくださいよ、とばかりに露骨に嫌そうな表情を浮かべた。  「怪しい音を聞いてないか? 口論だの、なんでもいい。ここ数日で変わったことを教えて欲しい」    「はあ……ちょっとあんまり覚えてないですけど、口論なら聞いたかもしれません。男の人と女の人の声で。時間ですか? 昨日の同じくらいの時間だったかなあ……でも、どの部屋で、しかも誰がいい合いしてたかなんて、さすがにわかりませんよ」  佐藤の聞き込みに、配達員は文字通り困惑していた。配達が立て込んでいるのにと文句をいう。それでも根掘り葉掘りきかれ、渋々といった様子だった。  「昨日もあった、ってことは連日喧嘩していたかもしれませんねぇ。二股だと思ってましたが、もしかしてストーカーですかねぇ?」  御手洗はそういうとペットボトルのお茶をごくりと飲み、ふたたび汗をぬぐう。ひとまず署へと帰ろうとしていたところに、佐藤の携帯が鳴り響いた。怪訝な顔をした御手洗に、佐藤は大きくため息をついた。  「もう一件、殺人だ。このアパートの近くだそうだ」
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