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捜査資料を徹夜で読んでいるうちに、いつの間にか眠りこんでいたらしい。気が付けば署内の出窓からは朝陽が差し込み、佐藤は涎を拭き目をこする。御手洗は「彼女が寂しがるから」とばかりに、寝ている間に帰ってしまったようで、佐藤は黙々と再び資料を読みふける。
包丁で刺されていた男性の写真を見ていた時に、不意に手が止まった。
「赤い封筒だ」
思わず、大きなひとりごとを呟く。
鈍器で殴られた被害者も、包丁で刺された被害者も、赤い封筒が現場にあった。「呪われてますって」という御手洗の言葉が脳裏をよぎる。
そんなハズはない、と慌てて、包丁で刺された男性の捜査資料を探し出す。目的の赤い封筒を取り出すと、そこには写真が入っていた。中身はどれも被害者男性の浮気現場の写真だ。
しかし何枚も何枚も、浮気現場の写真が入っている。だが違和感を覚え、鑑識に回そうとしたときに佐藤の携帯が再び鳴り響く。ポケットから慌てて取り出すと、御手洗からだった。
こんな朝方に?
とてつもなく嫌な予感がし、額や首にねっとりとした汗が伝う。
「……もしもし」
御手洗の荒い息遣いが聴こえる。息遣いだけではない、鼻水をすする音も同時にだ。
「御手洗、どうした? いま何をしてるんだ?」
「……先輩……」
御手洗の声が震えていた。
「……何が、あった?」
「終わりです、もう、絶望っス……」
その後、電話の向こうからは嗚咽が聴こえるのみで問いかけても御手洗は返答をしない。
「御手洗、何があったかわからんが、とにかくそこを動くな。俺が行くから。いまどこだ? 自宅か?」
「……自分の家、です。でも、先輩、ダメです。こないでください……」
そうして、通話は切れた。急いてところどころにぶつかりながらも、慌てて佐藤は御手洗の家に駆け付ける。
御手洗の家の玄関ポストには、赤い封筒が見えるように入っている。恐る恐る、ピンポンを鳴らすが反応がない。ドアノブを開けると、幸いにも鍵は開いていた。
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