アリの子とジャガイモのポタージュ

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アリの子とジャガイモのポタージュ

 人類が衰退して、世界はずいぶんと静かになった。何とか営みを継続している都市に人が集まって、それ以外の地域はほとんど住民を見かけない。夜聞こえるのは虫やカエルの鳴き声ぐらいだ。最近では野良猫の喧嘩がデデにとっての娯楽になった。それぐらい何も起こらない世の中になったというわけだ。  いや、常に何かは起こっているのだ。楽しいことではないだけで。巨大化した昆虫にヒトが食われたり、凶暴化したクマにヒトが食い千切られたり、巨大で高い知能を持つヒトの形をした何かにヒトが攫われて数日後に肉塊になってその辺にばら撒かれていたり、そんなことはしょっちゅう起こっている。楽しくない。デデは田舎に引っ込んで虫の声を聞き野良猫の喧嘩を見て時々巨大化した生き物の相手をしてのんびりと過ごしていた。  そうもいかなくなってきたのが一年前。国外脱出を決めたのが先月のことだった。飛行機が苦手だったので海路を選んだ。島国というのはこれだから困る。ひたすら歩けば国を脱出できるというわけでもない。明日穿くためのパンツと金とレーションとバチヅルを持って違法に航行されている船を乗り継いだ。不衛生で定員オーバーで今にも沈みそうな船で何とか大陸まで来た。正直、具体的にどの地に下りたかはよくわからない。
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