イナゴの佃煮、コオロギの味噌

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 ギーが案内したのは大きな建物がポツンと建った広い土地だった。建物の周りには背の高い草が生い茂っている。彼は「元々は学校だったらしいっす」と言ってから「中入ってみます?」と建物を指差した。デデが頷くと慣れた様子でポッカリと空いた四角い窓から侵入した。 「ガキの頃よくここ入って遊んだんすよー。ほかにやることもなかったし」  どうりで足取りに迷いがないわけだ。ギーに付いて歩き階段をひたすら上ると屋上に出た。少しでも体重をかけようものなら外れて落ちてしまいそうな柵の傍でギーが「結構眺めいいでしょ」と言った。デデが見渡すと確かに町全体を一望できた。景色は砂埃の茶色と塗装の剥げた建物の灰色、雑草の緑の三色が基本のサッパリしたものだった。 「あっち」とギーが西を指差す。「繁華街だったらしいんすけど今はクィーが出まくってるんで入らない方がいいっす」 「ふむふむ」 「俺がガキの頃はまだ行けたんですけどね。ヒトはどんどん東に追いやられてて。そのうち海に住むようになるんじゃないすかねー、なんて」  ははは、と笑うギーの表情は冗談と諦めがない混ぜになっていた。
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