アリの子とジャガイモのポタージュ

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 久しぶりに海を見たいという単純な動機で東を目指した。辿り着いたのは、かつてはそこそこ大きな町だったのだろうなと思わせるような場所で、誰かが管理しているかはともかく建物がいくつも建っていた。建物の前にパラソルやテントがズラリと並んだ市場があり、多くの人が行き交っていた。売られているのは主に魚か果物だ。米もある。道端の火炎樹は本で読んだ通り燃えるように真っ赤だった。今は五月か六月くらいか。人口が減ったせいかここ五十年くらいは自然が生き生きとし始めている。こうやって地球はジワジワと人類を滅ぼし自然を取り戻していくのかもしれない。  本来の目的である海を見に行こうと川沿いに進んでいると地元民の男性に声を掛けられた。見かけない顔だったせいか「旅で来たのかい」と言われた。 「まあ、旅」とデデは頷く。 「どこから?アジア人っぽいけどな」  最近は混血が進んで顔立ちから人種を見分けるのは難しくなってきているし、相手によっては不快に思う時もあるから若い人間はそんな質問をしない。年寄りはまだそんなことを気にするんだなと思いながら「日本」と答えた。
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