アリの子とジャガイモのポタージュ

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 男はどこかをチラリと見てから「見て欲しい奴がいるんだ」と躊躇いがちに言った。デデが首を傾げると「おまえ医者ってよりは炭鉱夫っぽいけど、頭は良さそうだし、何かわかることがあれば教えて欲しいんだ」と褒めているのか貶しているかわからない発言をした。炭鉱夫のイメージはバチヅルから来ているのだと思う。デデは特にやることもないので男に付いていった。  連れてこられたのは病院だった。今は診察はしていないようで、薬やら医療器具が散乱している。デデは錠剤を拾いながら男の後ろを歩いた。落書きと錆と埃。廃墟ってどこも同じような様相になるよな。拾った錠剤を水なしで飲み込んだ。  診察室の引き戸の前に人が数人集まっている。誰も診察室には入らず、こわごわ中を覗くだけだ。引き戸の取っ手を握る女性がデデを見て「ロック、誰を連れてきたんだい」と言った。ロックと呼ばれた男はデデを指差し「日本人だ。何か知っているかもしれないから連れてきた」と答えた。 「医者じゃないのかい」 「医者ではない」デデが答える。「2063年式人工生命体」 「千年前?ロボットか?」目を丸くするロックにデデは「ロボットじゃない。人工生命体」と返した。 「なんだい、ただのオンボロマシーンじゃないか」と女性は溜め息をつく。だから人工生命体だってば。訂正するのも疲れるので辞めた。溜め息をつきたいのはこっちである。人々の隙間を縫うように診察室へ入った。
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