アリの子とジャガイモのポタージュ

5/13

6人が本棚に入れています
本棚に追加
/59ページ
 診察台に横たわるのはひとりの少年だった。クルクルの癖毛の色はブロンド、肌は褐色。下半身は何も穿いておらず、捲れたTシャツからポッコリと膨れた下腹部が見えた。身体の下に敷かれたシーツは汗か、他の何らかの体液で濡れている。表情は苦しそうだった。  デデは周囲の人々に説明を求めるように振り向いた。ロックが片足だけ診察室に踏み入れた。 「クィーの赤ん坊がいるんだ」 「クィー?」 「そいつ、攫われて戻ってきたらそうなってて」  なるほど。この辺りでは巨大で高い知能を持つヒトの形をした何かを“クィー”と呼ぶらしい。「で、何をしたらいいんだ?」と訊ねるとロックは「デカいムシを食わせれば腹が縮む」と答えた。デデは「ふうん」と呟いた。診察室を出て出入り口を目指す。ロックが慌ててデデを追った。 「おい、どこ行くんだよ」 「ムシ捕り」 「本当に行くのか?」 「行かなきゃ生まれるんだろ、その、クィーが」初めて発声する単語を不器用ながら口にするデデ。「他に伝えたい情報があれば歩きながらで良ければ聞くけど」 「あー、そうだな。あの子どもの名前はカイン。両親と妹と一緒にクィーに攫われた。無事に戻ってきたのはカインだけだった」 「ふむふむ」
/59ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加