第一章

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「今からでも遅くないですかね?」 「聞かないで相手の嫌いなものを食べさせるよりマシでしょう」 「まぁそうですけど……」 こんな土壇場になって聞くのはカッコ悪いことなんじゃないだろうかと、幸守は思ってしまって、聞くべきかどうかを迷っていた。そんな彼に左門寺は「君のことだからそんなことを今さらするのはカッコ悪いとでも思っているんじゃないのかい?」と聞いた。彼には幸守の思っていることなんてお見通しなのだ。それにはさすがの波戸も呆れてしまって、「そんなこと思ってるんですか?」と聞く。そして、ため息をひとつついた彼女は「リサーチもせずにデート行くことの方がカッコ悪いですよ先生」と続けて言った。 「ですよねー……」幸守はそう呟いながら、大きなため息をついた。ゆっくりとスマートフォンを取り出して、梓とのトーク画面を開く。すると、突然左門寺がそれを取り上げる。 「おい!」 幸守はそう声を上げて、自分のスマートフォンを取り上げた彼を追いかける。左門寺は幸守のその手をひょいひょいと避けながら、「こんなのはささっと聞くべきだよ、幸守くん」と言って、そのスマートフォンで梓に好きな食べ物は何かと質問したのである。 「勝手にやめろって!」 「君がモタモタしてるからじゃないか」 一向に自分のスマートフォンを取り戻せない幸守だったが、ピロンッ!という音が鳴って、左門寺と幸守の動きが止まる。その音は、トークの返信が来たことを知らせていた。左門寺はすぐにそのトークの返信を見てからそれを幸守に見せて、「ほら、すぐに返信も来た。簡単なことだろ?」と言った。 「嫌いな食べ物はないから、幸守さんの好きなものでいいですよ。だって。ってか、君『幸守さん』って呼ばれているのか?」
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