第一章

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左門寺はまるで嘲笑するかのような笑みを浮かべて聞く。 「あぁ。一応俺の方が年上だからな。別にいいだろそんなこと」 そう言いながら幸守は彼が持つ自分のスマートフォンを奪い取る。「まぁこれで彼女が嫌いな食べ物がないってわかったんだから、フランス料理でも大丈夫ですよね?」と幸守はその場にいた左門寺と波戸に聞く。しかし、二人は幸守に次の問題点をそれぞれ提示した。 「僕は堅苦しいと思うがね」 「最初からそんなに肩に力が入るお店に行ったら、その次が大変ですよ、先生」 つまり、この二人からすれば初めてのデートにフランス料理はダメなんじゃないかという意見なのだ。梓の食べ物の好き嫌い以前の問題であった。「じゃあ最初からそれを言ってよ!」と言った幸守であったが、それに左門寺はすぐに切り返す。 「僕たちは言ったはずだよ。堅苦しいんじゃないかって。たしかに僕は君のリサーチ不足なところも指摘はしたけどね」 幸守はガックリと肩を落とす。そんな彼の肩を叩いて左門寺は言う。 「まぁそんなに落ち込むことはない。大切なのは君の気持ちを彼女に伝えることだ。彼女だってもう20代なんだから、少しデートが上手くいかなかったからって即決するほど恋愛に夢を見ている人じゃないよ」 「それ、励ましてんのか?」 「あぁ、もちろんさ。全力でね」そう話す左門寺に幸守は冷たい視線を向ける。こういう時の彼は決まって、腹の中では人を馬鹿にしている。 頭も良いし、面白い知識を幾つも知っていて楽しい奴なのだが、性格が悪い点だけが彼の唯一の欠点である。 「そんなことより、時間は大丈夫なのか?何時に約束なのかは知らんが、そろそろ出た方がいいんじゃないのか?」
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