第二章

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翌日のこと______。 左門寺と幸守は、菊村と薫と合流し、内川聖郷宅を訪れていた。一件目の容疑者である加納弓枝とは違い、さすが有名作家の家とあって豪邸であった。一度来たことがある幸守は、そこまで驚いていなかったが、左門寺は冷静であったがやはり驚いていたようで、「やっぱり作家というのは儲かるんだな」と隣の幸守に話しかけていた。 「聖郷先生は別格だよ。推理作家が受賞する賞はほとんど総なめにしてる人だから」 「君とは違うのかい?」 「俺と比べるなんて______」と、幸守は言いかけた。その後に続く言葉は、自分と聖郷を比べるのは失礼に値するという意味合いのものであったが、それを自分の口から発する前に、その会話を聞いていた薫が言ってきたから、幸守は少しプライドを傷付けられ、苛立ちを覚えていた。 「佐々先生と比べるなんておこがましいよ。だって、先生はまだ賞を獲ったことなんてなかったでしょ?」 背後から薫に問いかけられ、幸守は彼女の方を振り返って苛立ちをその口調で露わにし、「ご丁寧な説明をどうも」と言った。薫は根っからの内川聖郷のファンなのだろう。彼女の中では、幸守と聖郷の差は天と地ほどあるのだ。だとしても、薫の言葉に幸守は深く傷付いていた。しかし、今はそんなことは関係ない。とにかく今は事件だ______。自分にそう言い聞かせて、幸守は大きく息を吐く。 チャイムを鳴らすと、インターホンのマイクから女性の綺麗な声が聞こえてくる。幸守は以前にその声を聞いていたから、その声の主が誰なのかはすぐにわかった。 その声の女性に、菊村は事情を話した。 「わかりました。少々お待ちください」 そう言って、インターホンは切れた。すると、中からその美声に似合う美女が出てきて、門の扉を開ける。その女性こそ、内川繭美であった。
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