第二章

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「内川繭美さん……ですね?」 菊村はそう問いかけて、警察バッジを彼女に見せる。繭美は静かに「はい。中へどうぞ……」と言って、四人をその豪邸の中へと誘った。その四人の中に幸守の姿があるなんてことは、その時の彼女にもまったく気付いていなかった。 エントランスホールにあるグランドピアノは、やはり一同を驚かせた。中でも菊村は、ほー。と声を漏らしながら驚いていて、「こんな玄関先にピアノが置いてあるなんて……繭美さんのご趣味ですか?」と聞いた。 「えぇ。実は主人も昔ピアノをやっていたので」 「先生もピアノを!?」 聖郷のファンである薫は、その新事実にまた驚いていた。繭美はそんなに驚くことなのか?と疑問に思いながら、一同をリビングまで通した。全員がそれぞれ置かれたソファーに座り、最後に繭美が座って、「警察の方が私に何か?」と聞いた。そこで、菊村が改めて事情を説明し、「被害者の久住和希さんは、今から3年前に______」と彼が言いかけると、繭美はそれを遮って話し始める。 「私たちの娘は、あの男に未来を奪われました。娘には夢も希望もあったのに、それを永遠に奪われたんです……それなのに、法は奴を適切に裁いてくれなかった。少年法なんていうふざけた法律のせいで、奴は守られたんです……どうして人を殺した奴が守られて、私たちの娘は守られなかったんですか……?」 それを問われてしまうと、何も言えない。弁解する言葉も、菊村は言えなかった。彼は心が痛かった。きっと、その痛みよりも強い、まるで身を引き裂かれるような痛みを、繭美はあの日からずっと感じ続けているのだ。菊村は深々と頭を下げ、謝り続けることしかできなかった。そんな彼に繭美は冷静さを取り戻し、「すみません。刑事さんにこんなこと言っても意味がないのに……」と言った。
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