第二章

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頭を上げた菊村は「いえ、いいんです」と返した。気を取り直して、次に薫が繭美に尋ねた。 「あの、それで聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」 「はい、なんでしょう?」繭美は薫の方を向く。 「話の流れでもしかしたらわかっているかもしれませんが、あなたは今回の事件の容疑者に名前が挙がってます。だから私たちはお邪魔させてもらったんです。それでなんですけど、昨晩の10時から10時半までの間は、どこで何をしていましたか?」 「アリバイですか……」と呟く繭美。彼女は少し俯いて薫から視線を逸らしてから、「たしか、その時間帯はピアノを弾いていたと思います」と答えた。すると、左門寺は一瞬首をかしげて、「そんな時間にですか?」と聞いた。 「えぇ。気分が落ちてる時は、ピアノを弾くことにしてるんです。まぁ最近は夜弾くことはなかったんですけど、昨日はどうも心の調子が良くなくって、ピアノを弾きました」 「それを証明してくれる方は?」 続けて薫が聞くと、彼女は少し考え込んでから、「その時間帯は一人でしたから……」と答えた。 アリバイはないのか______。と、皆が心の中で呟いた時、繭美は何かを思い出して、あッ!と突然声を上げた。菊村が「何かありましたか?」と尋ねると、彼女は「そういえば______」と言って話し始めた。 「実は、夢中でピアノを弾いていたので、ご近所さんから怒られまして……それってアリバイになりませんか?」 「なるほど。それなら充分アリバイになりますよ。ちなみにですが、そのご近所さんというのは?」 「えっとー、この向かいの、“市川”さんだったはずですね」 繭美がそう答えると、薫がその名前を手帳にメモする。その時、ついに左門寺が繭美に質問した。
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