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「以前はそういうことはなかったんですか?」
「え?」
「以前にも夜にピアノを弾くことがあったみたいなことを仰っていたので」
それは些細な疑問であった。菊村も薫も、それがそこまで重要なことじゃないと思っていたから、二人して首をかしげて、そんなことを聞かないといけないのか?と思っていた。しかし、左門寺は真剣な顔をして繭美に聞いていたから、菊村と薫も繭美の方を向いてその口から語られる答えに注意を向ける。
「えぇ、まぁ、弾くことはありましたね。以前にも一回、ご近所さんから注意を受けて、それから約束事として、ピアノの演奏は夜の9時までって決めたんです。それをすっかり忘れてまして、それで今回注意を受けてしまったんです」
繭美のその説明を聞いた左門寺は、ほう、なるほど。と納得する。そして、彼は人差し指をピンと立てて、「あともうひとつ、僕の方から聞きたいことがあるんですがよろしいですか?」と繭美に聞いた。
「えぇ、なんでしょう?」
「昨晩、ピアノを弾いている時間帯はこの家に一人だったと言っていましたね?その時、内川聖郷先生はどちらにいらっしゃったんですか?」
左門寺は繭美のその発言を聞き逃していなかったのだ。いずれ聖郷にも話を聞くことになるのだが、彼女にもその件について聞いておけば、あとで何かに役立つ情報が手に入るかもしれない。彼はそう考えていたのだ。すると、繭美は「あぁ、主人なら______」と言って、「主人はその頃、出掛けていました。助手の三上くんと一緒に」と答えた。
「ほう。お出掛けになられていたんですね。それで、その“三上くん”というのは?」
「主人の助手をやっている作家志望の子です。3ヶ月くらい前に、主人の弟子になりたいとここへ訪ねて来ましてね。それからは主人の仕事の手伝いをしながら、作家として大成するために色々勉強しているみたいなんです。昨日も夕方くらいから一緒に小説のネタ探しをしに行ったんです」
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