第二章

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左門寺がここまで言ってくるということは、ピアノが弾けるというのは事実なのだろう。だが、彼が言うようにみんなから褒められるほど上手だというのは果たして本当なのか、幸守は知りたかったのである。 かくしてそれを検証するために、左門寺たちは一度リビングからエントランスに場所を移した。真面目に捜査をしている薫からすれば、いったい何を見せられているのだと問いたいところであったが、正直、彼女も少しだけ本当に左門寺がピアノを弾けるのかどうか気になっていた。だから彼女は、なんでこんなことをしているのかを周りに問うのではなく、「早く終わらせてくださいね。本題は犯罪捜査なんですから」と言うだけであった。 左門寺はグランドピアノの鍵盤の前に座り、「さて、何を弾きましょうか?」と周りに聞いた。 「そういうのには疎いんですよねぇ……」 菊村はそう言って、他の人たちの顔を見始める。すると、繭美が「じゃあ______」と話し始める。 「ショパンのエチュード第12番、『革命のエチュード』ならどうでしょう?」 「いいですね」と左門寺は言って、大きく息を吐く。そして、まるで人が変わったかのように鍵盤を叩き、奏で始めた。その重厚な響きは、胸に入り込むようで圧倒される。まるで音の中にその体ごと沈んでいくような感覚を覚えた。 一音も音程を外すことなく、左門寺は周りを圧倒しながら弾き終えた。 「すごいですね」と薫が一言。 「先生はピアノも弾けるんですね」と続いて菊村が言った。それまで嘘だと思っていた幸守も、彼のその実力に圧倒され、何を伝えればいいのかわからなくなっていた。左門寺はそんな彼を尻目に繭美の方を見て、「それで、あなたはどんな曲を弾いていたんです?」と聞いた。
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