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「えっと、その時は『木星』です。あの曲を弾くと、なんだか心が洗われる気がして……」
「なるほど。そうでしたか」
左門寺はそう言いながらゆっくりとイスから立ち上がり、グランドピアノの蓋を閉じる。
「ところで、内川聖郷先生はどちらへ?」
左門寺が聞くと、「主人は編集者の方と打ち合わせがあるって言って、朝早くに出て行きましたよ」と、繭美はスラスラと答えた。
「そうですか。実は僕の友人である幸守くんや、一緒に捜査をしているこの女性刑事の火箱さんは、内川聖郷先生のファンでしてね。僕はお会いしたことがなかったので、どんな方なのか一度お目にかかりたいと思っていたんですが、残念ですねぇ」
左門寺は幸守と薫を引き合いに出して言った。そこでやっと、繭美もこの犯罪捜査に参加している幸守について触れる。
「そういえば、そちらの方はこの前編集者の方といらっしゃった方ですよね?名前はたしか、佐々幸守さん______。主人と同じ作家の方でしたよね?ずっと不思議に思っていたんですよ。作家の方が犯罪捜査に参加していらっしゃるなんて」
推理小説や漫画でしか見たことがない______。と、繭美は続けた。しかし、その例でいけば左門寺だって普通なら参加できる人ではない。彼だって一般人なのだから______。幸守は彼女に軽く会釈してから、「さっきから偉そうに話してますけど、この人も警察の人間じゃないですよ」と話した。繭美は幸守の方から左門寺の方に視線を向けて、「え、そうなんですか?」と聞いた。
「えぇ。実は僕、異常犯罪心理学者でしてね。訳あって、警察の犯罪捜査に協力させていただいてるんです。作家の彼は、いわば僕の助手みたいなものでしてね」
「そうなんですか……」
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