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七口目
たかり這いずりこじ開ける。見えなくても感覚でわかる、体の中に犇めき蠢く群れがもたらす掻痒感。孔から潜り込んだミミズが縺れ・絡まり・解け、糸玉のように丸まって再びばらけ、筋と筋の間・筋と腱の間・筋と骨の間・関節の膨らみ、経穴を結ぶ経絡を押し広げていく。
「ぁ゛ッが、ぁあっ゛ッあ」
ミチミチプチプチ肉が裂け、瞬時に再生する音が聞こえる。下っ腹を灼熱感が貫き、瞼の裏が真っ赤に染まる。
「ひっ、いぎっ、死ぬっ」
「死なん。死ぬほど痛いだけや」
茶倉が俺を組み敷いて宥めすかすが、拒絶反応は止まらねえ。体がミミズを拒み、真っ赤に爛れた合わせ目がひとりでに塞がっていく。
「!?ッふ、ぁが」
あっというまに組織が癒着して通り道が狭窄、擦過で生まれた裂傷が激痛を与える。
「処女に戻れて得したな」
「ふざけ、ンん゛っ」
「男の苗床には疑似的な子宮が実る。そこで子を孕む」
「子、宮?」
へその下あたりを指す。
「ケツから産むんじゃねーの?」
「ケツは排泄器官。まあ産道と言えんこともないか」
「盲腸みてえにポコッて膨らむのか?形はどんなのだ、女の子宮と同じ?」
好奇心に負けて質問すりゃ、茶倉が指で形を作ってみせる。
「果物でたとえると……柘榴かな」
「柘榴って赤くて小せえ粒々がいっぱい詰まったあの……」
人肉の味がするって噂の。
「熟れて弾けて飛び出す」
おぞましい想像に青ざめる。茶倉の唇が弧を描き、歌うような節回しでご高説をたれる。
「鬼子母神知っとるか?ジブンかてようけ子供おるくせに、里に下りるたんびに人の子拐かして喰うっとった女神。とうとうお釈迦様のお怒り買うて、一番可愛がっとる末の子を隠された。そんとき釈迦が言うたんや、子供の代わりに柘榴喰えて」
鬼子母神に供える柘榴は多産の象徴。熟れて、弾けて、飛び出す。
「口曲がるほど酸っぱいんかな。うっとりするほど甘いんかな」
悪戯めかした人さし指を鼠径部に滑らす。
「化けもんと番たら男でも産める体になる。ウチの先祖はよお耐えた、手当たり次第に術師や憑き物筋と交わって胎を肥やした」
「あいのこはどうなる?」
「蠱毒の材料にしたり式にしたり……使い道は尽きん。お前は知らんやろけど理一、裏の世界じゃ結構な高値で取引されとんねんで」
「そうなの?」
「茶倉の人間にとっちゃ自家薬籠中の使い魔、よそもんには不老長寿の薬。踊り食いしはったら寿命が延びる、霊力底上げのバフも掛かる」
タチの悪い冗談に笑いかけ、茶倉の真顔に絶句した。
「……ドーピングミミズじゃん」
「先々代のあいのこは末期癌喰うた。滋養強壮に効くんはホンマ、醜い金持ち共が目の色変えて群がんで」
「踵の角質食ってくれる魚みてー」
「一気に霊験失せた」
「だけどすぐ消えちまうってさっき」
「苗床の仕上がり次第。長生きできるかどうかは親が分け与えた霊力の質と量にかかっとる」
「お前の子は」
「一週間てとこ」
長いか短いかわかんねえ。
「会える?」
「便所に行ってこい」
どうでもよさそうに切って捨てる。無理矢理孕まされたミミズに情を移すのは難しい。
「普通の人間は化けもんと馴染まんさかい、先鞭付けるとき反発働く。相性によるけどな、土合わなしんどいやろ」
憐れみと蔑みを織り交ぜた顔でフツー寄りの俺を見下す茶倉。得体の知れねえ何かがダチの口を借りてるようでぞっとする。
「男でよかったな。女は処女膜甦ったっちゅー話やで」
「ん゛ッぐ、ぁあっあ゛ァあっ」
「異物の締め出しは自然な反応。ゲテモン入れてたまるかて代謝が活性化しとる」
「俺ッ、は、受け入れて」
「口だけ。心ん底じゃ追い出したがっとる証拠に肉がぴっちり塞いでまうんよ、簡単に掘り抜けん」
「んなこと言われてもどうしたらっ、ひっい」
しまいにゃ茶倉に抱かれてんのかミミズに犯されてんのかわかんなくなって、夢中で縋り付いていた。
茶倉がサドっけたっぷりに揶揄する。
「はよ降参せなず~っと破瓜され続けるで。痛いの好きならかまへんか」
先祖代々優れた霊能者と交わり受肉の器をこさえてきた茶倉と違い、俺はたまたま霊姦体質に目覚めちまったずぶの素人にすぎねえ。米粒に写経するでも座禅で瞑想するでも朝晩禊して身を浄めるでもねえ、霊力を高める修行なんて何もしてこなかった堕落しきった俗物であるのに加え、デトックスなんて知ったもんかと食品添加物てんこ盛りのジャンクフードを馬鹿食いしてきた文明に毒された現代人であるからして、苗床が熟すにゃ時間がかかる……らしい。要はきゅうせん様にも好みがあんのだ、化けもんの分際で生意気な。
「はッァん、ぁあっ」
「えっろ。先っぽ糸引いとる」
なのに余裕を失った茶倉に突かれるたび腰が跳ね、陰茎が固く張り詰めていく。
コイツに抱かれてると思うだけでたまんなくて、激しく抜き差しされる怒張をケツが食い締める。ピッチが速まる。絶頂が近付く。
「キツっ……」
辛いのは俺だけじゃねえ、茶倉だってそうだ。初物のケツの締め付けに戸惑い、額に汗して前立腺をぶっ叩く。
「あっ、あっ、あっ、来るっ」
凄まじい勢いで捏ねられる肉と肉。陶芸家が回すろくろみてえに魂までも捏ね混ぜられ、彼我の境界が溶け出していく。
『あぁっ、ぁんっ、ンっふ』
綾な組紐を十重二十重に巡らす牢の奥、宙吊りにされた少年が狂おしくもがく。古風な着物をはだけ、育ちきらぬ裸身をさらし、湿った布を巻いた顔で泣きじゃくる。
縣。
じゃねえ、茶倉。
「あっ、あンあっ、ぁあっ」
雁字搦めにされた少年の裾を割り、太く醜悪な触手が絡み付く『嫌や、あっちいけ』弱々しく震える声『ええ子になるから』下肢に巻き付いて尻を剥く『ひっ、ぎ』待て『~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!!』やめろ『あ゛ッ、あ゛ッ、あ゛ッ』目を閉じても見える、瞼の裏の暗闇が映し出す『助け、え゛ッぁ』幼い茶倉を触手が凌辱する、関節外れるギリギリまで四肢を引き絞りピストンする。
「~~~~~~~~ッ、ぁ、よせ」
「やめへんよ」
より強くより深く突かれるほど鮮明に視える、稲光の刹那に邪悪な情景が爆ぜ散っていく。
俺は「慣らし」を甘く見ていた。「慣らし」は化け物の器になる準備、きゅうせんの記憶を移し替える通過儀礼。瞼を閉じても心の目は閉じれず、苗床の血肉を養分に実った柘榴が弾け、五感と紐付いた幻が次から次へ打ち寄せる。
『真っ暗はいや』護符と鈴を掛け連ねた組紐の囲いの中、長い黒髪の少女が膝を抱える『出してお母さん』乱れ髪を張り付かせた顔は茶倉によく似ていて『やだっ、はなして』触手が器用に着物を脱がす、地面を掻きむしる少女を無慈悲に引きずっていく『口ごたえしません』嬲り者『ひっ、ぁ』華奢な脚をこじ開け、淡い陰毛に翳る股をなぞり、幼い合わせ目をゆっくりほぐす。
『ぁあぁあ―――――――――――…………』
純潔が散る。
悲嘆、憤怒、恐怖、嫌悪、恥辱、苦痛、諦念、絶望、無念……何十人何百人と飼い殺しにされてきた苗床の前世の濁流、それを上回るどす黒い快楽が思考を乗っ取って頭ん中を焼き潰す。
『あッ、あッ、許してきゅうせん様っ』
穢れた闇の中で茶倉が喘ぐ、長い黒髪の少女が踊る。他にも立ち替わり入れ替わり色んな奴が出てきた。年の頃は大体十代前半、女が多いが男もいる。覗き見なんてしたくねえのに繋がってると嫌でも視えちまって、どうすることもできねえまんま高みに追い上げられていく。
『おばあちゃん助けて』茶倉が死に物狂いに懇願する『ここ開けてお母さん』少女に触手が群がる『お慕い申し上げております、きゅうせん様』二人によく似た女が凛と顔を上げて宣す『私に子種をくださいまし』
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