1. 怪しいおじさん

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1. 怪しいおじさん

 私はマリアンナ・ルーシャス。一人でピクニックを楽しもうと屋敷の裏庭に来てみたら、いかにも怪しいおじさんが倒れていた。 「オー、ノー……。タベルモノ、プリーズ……」  怪しいおじさんは、気取った形の口ひげを生やして、なぜか箒を手にしている。  訳が分からないが、たぶんどこかから迷い込んで、お腹が空いて動けなくなってしまったんだと思う。  可哀想に思った私は、持っていたかごからサンドイッチと冷たいお茶を取り出して、おじさんに差し出した。 「ベリー、ベリー、アリガトゴザマス!」  変なおじさんはものすごい勢いでサンドイッチを平らげ、お茶を飲み干し、もう一杯おかわりをもらうと、大きなゲップをした。 「ソーリー、オイシカッタ! ポンポン、イパーイ!」  ポンポン、イパーイ? たぶん、お腹いっぱいになったと言いたいのかもしれない。言葉が片言なので、きっと異国の人だろう。サンドイッチが食べられてしまったけど、お腹いっぱいになってもらえてよかった。  人助けをして、ちょっといい気分になっていると、異国のおじさんが言った。 「ワタシ、マホウツカイ。メチャエライヒト。オレイニ、ネガイカナエルヨ、イッコダケ」  どうやら、おじさんは魔法使いのようだ。そんなに偉い人には見えないけれど。まあ、人は見かけで判断してはいけない。  それにしても、魔法使いに出会って、お礼に一つ願い事を叶えてもらうだなんて、まるでお伽話のようだ。  怪しむ気持ちもあるけれど、好奇心の方が大きい。だって、私はまだ十二歳の夢見る女の子なのだ。 「何でもいいの?」  魔法使いという存在に期待と憧れを抱きつつ、質問してみる。 「イエス! ナンデモ、オーケーヨ!」  何でも叶えてくれるらしい。さすがは、めちゃ偉い魔法使いのおじさんだ。私は最近、知り合いの令嬢の影響で欲しくてたまらなかった、あるものをお願いすることにした。 「それなら、フワフワで、柔らかくて、大人しくて、お利口な、可愛い子猫をお願いします」 「フワ……ヤワ……。ホワット?」  異国の魔法使いのおじさんには、聞き取るのが難しかったようだ。私は自分を指差したり、両手で猫耳を作ったり、身振り手振りを交えながら、おじさんにも分かるように言い直す。 「私、欲しい、子猫、可愛い子」  するとおじさんは理解してくれたのか、満面の笑みを浮かべると、おもむろに箒の柄を振り上げて「チンカラホイ!」と叫んだ。  すると、キラキラと虹色の光が私を包んで……  光が消えると、なぜかおじさんが巨大化していた。  え、どういうこと? 私の子猫は?  思わず辺りを見回すと、周囲の草や花まで巨大化している。  ……いや、どうやら私が小さくなっているみたいだ。そして私の手が、フワフワの毛に覆われ、柔らかい肉球までついている。  まさか……。 「アナタ、コネコ。ベリベリキュートネ!」  魔法使いのおじさんは、いい仕事をしてやったという表情で親指を立てて見せると、そのまま箒にまたがって、青空の彼方へと飛んでいった。 「違う! こうじゃなーーーい!!」  私の絶叫はおじさんに届くことなく、子猫の姿にされたまま、一人残されたのだった。
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