4. 猫の中の猫を目指して

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4. 猫の中の猫を目指して

 師匠のおかげで自由に猫になったり、人間になったりできるようになった私は、猫姿での能力を上げるために鍛錬を重ねていた。  後ろ足で頭を掻く練習や、全身をしならせて伸びをする練習。綺麗にごはんを食べたり、ミルクを飲んだりする練習に、前足で顔を洗う練習。可愛い声で鳴く練習に、細い塀の上を優雅に歩く練習。  一番苦労したのが、木の登り下りの練習だ。登るのは案外簡単だったが、下りるのがなかなか難しいのだ。恐怖心が先に立って、なかなか一歩を踏み出す勇気が出ない。  時に本物の猫を観察してお手本にしながら、爪を立てて、木の幹を伝ってゆっくり下りる方法と、木の枝から飛び下りる方法を何度も何度も繰り返した。  日々の鍛錬のおかげで、だいぶ猫の動きが様になってきたと思う。たぶん、本物の猫に紛れ込んでも違和感なく振る舞える気がする。 「あなたは一体、何を目指しているの、マリアンナ」  居間のソファに腰掛けて『月刊・猫の心と生態』を読み耽っていた私に、お母様が呆れ声で話しかけてきた。 「まあ、お母様。猫ってとても素晴らしいんですよ。私、可愛くて洗練された、猫の中の猫を目指しているのです」  すっかり猫好きになった私は、大真面目な顔で答える。 「あなたが目指さないといけないのは、立派な王太子妃よ。明日は王妃殿下と王太子殿下とのお茶会があるのだから、きちんと準備しておいて頂戴」 「はい、分かりました」  そうだった。明日は私の婚約者であるルドルフ殿下とお茶会をするのだった。  ここ、イルヌス王国の王太子であるルドルフ殿下との婚約は、同い年であることと、家柄の良さで決められたものだ。今はお互いにただの顔見知りのような仲だが、政略結婚とはそういうものだろうし、もしかしたら、これから意気投合して好きになるかもしれない。  とりあえず、明日は可愛らしい印象を与えられるような格好をしていこう。そう決めて、愛読本を閉じ、ドレスを選びに部屋へと向かった。
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