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真夜中、H博士は独り自分の研究所に籠もって新薬開発の為、実験に没頭している。必要ないのに近寄りがたい雰囲気を周囲に発散しながら…そこへ近づくとしたら闖入者。
「お、おい、騒ぐと撃つぞ!」
ギクリとしたH博士は冷や汗をこめかみからじとっと滴らせながら振り向いた。
「お、お前は…」
「そ、そうだ、見ての通り強盗だ」
小柄で貧相な、序でに言えば自信なさげな男だ。拳銃を持つ手も心なしか震えているようだ。
「な、何をしていた」
H博士は与し易さを感じて幾分落ち着いて言った。
「見ての通り薬を作ってる」
「お、お前、俺の言い草を真似したな」
「この場合そんな嘗めた真似は出来よう筈がない」
「き、気取るな!物言いが妙に落ち着き払ってて気に食わねえ。そ、そんなことより、それは何の薬だ」
「そんなことより金のありかを聞くべきじゃないのか」
「う、うるせー!やかましいわ、ほんとに一々言うことが気に食わねえ。俺の質問に素直に答えろ!」
「よし、これはな、背の伸びる薬だ」
「な、何!ま、まさか、お前、さっきから俺のこと、からかってんじや、ねえんじゃねえだろうなあ!」
「いや、決してそうじゃない。私は科学者だ。それ位の研究は当たり前にする」
「ほ、ほんとだな!」
「ふむ」
「よ、よし、それは良い」とほくそ笑む小男。「そ、それはいつ完成する?」
「あとちょっと配合するだけで済む」
「よ、よし、そうか、じゃあ、それを早くやれ」
H博士は渡りに舟を得たように机に向き直り、程なくして振り向きざま言った。
「遂に完成した」
「は、はやっ、早過ぎだろ。ま、いい、よし、じゃあ、お前、試しに飲め」
「これはな、私みたいに背が高い人間には効かないのだ」
「じゃあ、何か、俺みたいに背が低い人間には効くっつうのか」
「そうだ」
「ふん、畜生め、こんな時に限って素直に認めやがって、ま、いいや、よし、そんじゃあ、何でも良いからお前から飲め」
「よし、安全を確認してやろう」と言ってH博士はラッパ呑みで一口飲んだ。「うん、何ともない。実験は成功した。さ、呑み給え」
液体の入ったフラスコを渡された小男はH博士と同じように一口飲んだ。すると、見る見る背が伸び、股座までこんもりと膨らんでしまった。
それを見てH博士は強盗以上に驚いて言った。
「そ、そうか、低身長だけでなく短小も解消するのか」
それを聞いて強盗は卑屈な面影が消え去り、喜び勇んで言った。
「すげえ!こんなことってあるのか!」
「君、見違える程、快活になったじゃないか!」
「博士!」と強盗は思わず叫んだ。「俺、なんて礼を言って良いやら…」
「礼なんか良い。それよりこれからは女性にもてるんだからバンバンやるんだよ」
「はい!博士!」
「すっかり自信がついたようだね」
「はい、博士!俺、これから出直します!」
「ふむ、頑張るんだよ」
「はい!きっと立派になって見せます!」
「ふむ、じゃあ、元気でね」
「はい!博士!」と言った勢いで研究室を飛び出して行ったのを見送ってからH博士は110番通報するや、ニヤリとして独りごちた。
「生憎、試作品の為、効果は1時間切り、怒って舞い戻ってきた日には即逮捕だ」
「なんてうまく出来た話だ。ハッハッハ!」と大笑いし、「それにしても、まさか、一物まで伸びるとはな。どう間違えたものか、ハッハッハ!」と更に大笑いするH博士であった。
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