佐々山電鉄応援団 第4巻

7/12
前へ
/12ページ
次へ
頑張るぐんまの中小私鉄フェア準備   十月下旬  学校では、美佳ちゃんの都市伝説が流れていた。  最初、沼川ショッピングモールで、美佳ちゃんを見かけた女子が声を掛けても美佳ちゃんは無視して歩いて行ったという話があった。別の女子から美佳ちゃんは別の場所に同時刻に居た事が判明すると誰もが恐怖した。  学校の近くで美佳ちゃんを見かけて、教室に着たら、美佳ちゃんは既に教室で早苗ちゃんと談笑していた。  最近では、佐藤美佳は二人存在しているという都市伝説が生徒の間では面白おかしく語られ始めていた。  沼川無料カフェ もう、午後七時を過ぎると外は真っ暗だ。 十一月上旬に開催される“頑張るぐんまの中小私鉄フェア”に向けての最終会議が一時間前に終わったばかり。 「アタシの偽物。マジ迷惑だな」と美佳ちゃんが言う。 僕は、その偽物の存在を承知している。 間違いなく瑠佳ちゃんだ。  むしろ、狭い渋沢町の中で、本人同士が遭遇しない事のほうが不思議なほどだ。  間違いなく瑠佳ちゃんは楽しんでいる。 瑠佳ちゃんも困った子だけど、美佳ちゃんも困った子だ。 「美佳ちゃん。こないだ僕を仲間外れにしたでしょ。西村さんと長谷川君だけ誘ってさ。なんで僕を誘ってくれなかったの?」 「優はヘタレだから心霊スポットって言ったら断るだろ?最初から誘わなかったんだ」 自分自身が都市伝説になっているのに美佳ちゃんは渋沢町の温泉街の外れにある心霊スポットに出かけて居たらしい。 西村さんが「十月に肝試しはねぇ」 長谷川君は「でも、実際に怪しい奴はいたけどな」と意味深な事を言い出した。 「佐藤さん。幽霊に名刺渡しにいったんだよね。相手も会釈して受け取っていたし」 「だからさ。心霊じゃなくて人間だよ」と長谷川君が笑っていた。  美佳ちゃんは「優の名刺渡しといた」 「なんでっ」 「アタシの家に来ると怖いから」 「なんで。いつも美佳ちゃんは!」 有名な心霊が出る井戸。 白いワンピースを着た長い黒髪の少女が井戸から這い出てくるという。  この心霊を見ると、一週間後にテレビの画面から白ワンピースの少女が出てきて呪い殺される都市伝説。  美佳ちゃん達が行った当日に、本当に白いワンピースの女性が、問題の井戸付近に居てデジカメで井戸を撮影していたという。  美佳ちゃんは、静止する長谷川君と西村さんを振り切ってギャッピ市松を小脇に抱えて、白ワンピースの女性に僕の名刺を渡したらしい。 「なんで。いつも僕の家に怖いモノを送ってくるの?それに僕を仲間外れにしてっ」  美佳ちゃんは「大丈夫だよ。あの心霊。たぶん普通の人間だよ。お化けじゃない」  そんな話をしていたら、沼川無料カフェの一階で声がした。  美佳ちゃんが「誰だ?こんな時間に?」 と一階に下りて行く。女性の声がしている。 「ほい。お客様だよぉ」  すると、美佳ちゃんが女性と二階に戻ってきた。  西村さんが「うぇ。マジで連れてきちゃった」と後ずさりした。  長谷川君も「まだ一週間たってないぞ」とお化けでも見るように震えている。  美佳ちゃんが「ほいっ。この人は沼川地域おこし協力隊の長沼さん」と紹介した。  地域おこし協力隊は、都市部から条件不利地域へ若者が住民票を移動して、その地域で生活拠点として働く人を、その地方自治体が地域おこし協力隊員として委嘱して一定期間、地域活動を支援したり協力隊員のノウハウ、技能、特技を生かした地域協力活動をする人達。此処に定住をする。 「沼川市の観光広報とか地域ブランドの開発とか。まぁ。いろいろとしてましてね。今回、佐々山電鉄応援団の皆さんと佐々電のイベント。それに協力隊としても加えて貰えればって考えて居たら、美佳ちゃんに名刺をもらってね。これはチャンスって」  美佳ちゃんは「長沼さんはね。沼川市だけでなく渋沢町も観光広報をしていてね。イベントの企画とか、SNSとかの発信とか意欲的に頑張っている人なんだよ」  長沼さんは「そんな訳で、佐々山電鉄応援団の皆さん。イベントを成功させよう」  新しい仲間が増えた。 佐々山電鉄は、初参加なので何をしたらいいのか手探り、沿線自治体も鉄道イベントのノウハウは無い。 「此処は、過去の開催した地域や経験値のある鉄道会社、経験者人脈が必要だね」 長沼さんは積極的に発言をしてくれる。 「鉄道だけでなくバスも連携したら?」 長沼さんは、国越バスにも日帰りツアーを企画した事があるらしくバスとのコラボを提案してきた。  僕達、高校生だけでは実現が難しいような企業、観光、商工業、そして地域住民の小さな催事や他地域おこし協力隊の連携まで駆使できるという強い人脈と経験を持つ人材がサポートしてくれるのは嬉しい限りだった。  毎年他社で開催されてたイベントを楽しみにしている人達、また佐々山電鉄を応援してくれる沿線の人達にも失敗は許されない大事な行事だ。  美佳ちゃんは「長沼さん。普通のイベントなら良いのですが、佐々山電鉄は困った問題があるんですよ」と本音を明かした。 「なになに?ヤバい話?」と聞いてきた。  最初の困った事は、鉄道事業者なのに肝心な電車を走らせられないという事だ。  次に困った事は開催場所。 通常は車両基地のある駅や隣接する本社または広場が必要になる。 公共交通利用を目的とするが、今回に限り来場者用の駐車場を確保しなければならない。 「それは、沼川市内の商工会と沼川市役所を手配して貰えるよ。アタシが頼んであげるよ」と意外と簡単に解決してしまった。  佐々山電鉄応援団は、佐々山電鉄本社で神林社長と新しい幹部、そして従業員のボランティアで構成された実行員会、労働組合の同業他社の鉄道、バスの仲間意識で準備と当日の役割分担を決めていた。 「もう少し早く、長沼さんに会えたらポジションに入れられたのに」と美佳ちゃんが悔やむと「別にいいよ。沼川市の枠があるなら、そこを拠点にするからさ」と笑う。  出来上がったばかりのチラシをみて長沼さんは「なかなか良い」と褒めてくれた。 佐々山電鉄本社には、関係者が集まり広報の最終チェックが終わった。  準備されているポスターを群馬県内に張り出し、チラシを県内の駅や関係各所に送り陳列して貰う。 グッズや飲食店舗の売店配置や注意事項の手順書を送付した。 佐々山電鉄としては、沼川本町車両区で200型電車を3編成並べて普段は見られない方向幕を掲出しての撮影会、200型電車の運転台での制服・制帽撮影会、鉄道部品即売会、佐々山電鉄本社会議室での鉄道模型運転会、認可が下りないとできないの隠し玉だけど可能なら200型電車を使った本線の試運転撮影会も候補にあがっている。  この試運転は、沼川西地区の住民合意によって実施の可否が決まるので未定だ。 イベントは、群馬県公認アイドルの“はるな団”の研究生ミニライブ&佐々山電鉄応援団女子の一日はるな団、群馬県立沼川女子高校の吹奏楽音楽会、だんべい踊り実演、手トロの乗車などが企画されている。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加