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「ママ、ママ。ねえ、あれ貸して。お願い」
「あれは、玩具じゃ無いのよ」
「わかってるぅ。大事に遊ぶからぁ。ゼーったいに汚さないからぁ」
「はいはい。絶対によ。汚さないでね。来週の発表会で使うから、クリーニング出すの、もう間に合わないからね」
母さんの入ってたママさんコーラスの、揃いの衣装は、白いブラウスとロイヤルブルーのロングスカート。このスカートが、子供の頃は憧れのドレスだったよね。
ウエストがゴムのスカートを、ズズっと引き上げ、脇まで持ってくればドレスに変身。肩紐が無いドレスを、ストラップドレスって言うんだって、教えてくれたのもお母さん。あの頃のお母さんはちょっと、ポッチャリさんだったからから、ウエスト用のリボンを、お胸の上でキュって締めて結んで、蝶々にしてくれたね。
ちょっと長くて踏みそうになっちゃうから、お腹の周りもリボンで巻いて、ちょっとたくしあげたら。ほらね、素敵なロングドレスの出来上がり。
足元は、お気に入りのレースのソックス、だったけどね。あの靴下は、密かにお姫様の靴下って、呼んでたんだ。
このドレスを着れば、気分は大物歌手。炬燵の天板を裏返してステージにして、ワンマンショーのはじまりはじまり。
普段は机の上に上がるなんて、絶対に許されないのに、この天板の裏返して緑色の時だけは、大目に見てくれてたよね。
マイクは無いから、ラップの芯にリボン付けて貰って、それをマイクみたいに、持って歌ったよね。
歌ってる歌は、アニメの歌や童謡なんだけど、歌う前と終わりに深々と頭を下げて、ほら、良い感じだったでしょ。手振り身振りも付けて、成り切ってたよね。
母さんのこのスカートは、どうしても捨てられないから、やっぱりこのまま、クローゼットに掛けておくね。
ねえ、母さん。産まれて来る子も、女の子だって。母さんのスカートのドレスを着て、ワンマンショーをするかな。
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