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 懐かしい夢を見ていた。  小学校一年の夏。かけがえのない野球仲間と出会った、輝かしいあの日の夢。  でも今はその輝かしさがかえって俺の身体を重くしている。早くしなきゃ練習に遅刻してしまうというのに、なかなかベッドから起き上がれない。  部活に行けば、俺は今日も岳と顔を合わせなければならない。 / 「お、おはよう、大成! 遅かったね!」 「……おう、おはよ」  無理に作ったような明るいテンションで声をかけてきた岳に、俺はぎこちない作り笑顔で応える。そうすると今度は岳の笑顔が引き攣る。  こんなギクシャクしたやり取りを俺たちはもう二ヶ月近く続けている。岳が投手転向を監督に申し出た、高校二年生の四月頭からずっと。  元々岳は外野手だった。グラブ捌きや球際の強さは人並み。守備範囲は並よりちょっとだけ下。どこにでもいる、平々凡々な外野手。  ただし、送球の鋭さだけは群を抜いていた。いわゆる鉄砲肩というやつだ。  投手向きかどうかで言えば、間違いなく向いている。肩の強さは投手の第一条件だ。実際、俺と一緒に野球を始めた小学生の頃から今に至るまで、その時々の監督から何度も投手転向を勧められるのを俺は見てきた。  だけど岳はそのたびそれを跳ね除け続けた。理由はなんとなく分かっている。どの時期においても岳の所属するチームのエースが、俺だったからだ。  岳はこれまでの野球人生ずっと、俺と争うことを避けてきた。それがこの春、自ら投手転向を申し出た。  俺たちの関係は友達から敵同士に変わった。 「投手陣は朝は基礎トレ。午後からは全員、投球練習場(ブルペン)に入ってもらう。いいか!」 「はい!」  監督の指示に返事をし、練習のためグラウンドに向かう。投手陣に加わったばかりの岳はまだ一人ではどうしていいのか分からないのか、俺の後ろを金魚のフンみたいに付いてくる。俺はそれが少し鬱陶しくて、バレないように舌打ちをした。  おい、岳。なんで今更急に投手なんて言い出したんだ。こういうところは、あの頃と全然変わってないくせに。
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