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 今日の練習は散々だった。岳の凄まじい投球を見た後の投内連携練習で、俺はつまらないミスを連発してしまった。投手転向したての岳の方がまだ出来ていたぐらいだ。こっちは投手歴九年目になるというのに。  俺は監督の信頼を失い、岳は評価を上げた。奴はもう俺の背後に迫っている。  岳のくせに。岳のくせに、岳のくせに!  心の中で何度悪態を吐いたか分からない。そのたびイライラが募り、またミスを犯した。  腰巾着みたいな弟分にエースの座を奪われる。そんなダサいことがあるだろうか。俺は今、岳を野球に誘ったことすら後悔している。輝かしいあの思い出が、真っ黒に塗り潰されてゆく…… 「た、大成」  練習後、いつものオドオドした態度で岳が話しかけてきた。  俺は帰る支度を続けた。周りから見ればほとんど無視しているように映っただろうし、実際、そのとおりだ。スポーツバッグを左肩にかけ、足早にその場を去ろうとする。 「大成!」もう一度、今まで聞いたことないほど強い声で名を呼ばれた。 「ごめん!」 「……は? 謝るなよ。そっちの方が惨めだわ」  謝るなんて、これからエースを奪いますと言っているようなものだ。つい語気が荒くなる。チームメイトたちが気まずそうに脇を通り過ぎて帰ってゆく。久しぶりに岳と二人きりになった。 「そういう意味で言ったんじゃないよ。ただ、僕が急にピッチャーなんてやり出したから、大成からしたら『裏切られた』って感じたんじゃないかって」  さっき自分が思ったことをドンピシャで言い当てられ、思わず口ごもった。  けど、それは事実じゃないか。自分から進んで敵に回っておいて、今更なんの言い訳をするつもりだ。  沈黙を傾聴と受け取ったのか、岳は続けて口を開いた。 「僕にとって大成はずっとヒーローだった。いじめから助けてくれて、野球と出会わせてくれて……カッコよかった。憧れた。だからこそ、僕はずっとピッチャーの誘いを断り続けてきた。大成に恩を仇で返すような真似はしちゃダメだと、自分に言い聞かせて。  だけど最近こうも思ったんだ。いつまでも憧れてるだけじゃダメだ。僕はずっと大成の影に隠れて、守られて生きてきたけれど、それじゃ僕はいつまでも『弱虫がっくん』のままだ。  何もできないこんな僕に、ピッチャーとしての才能を見出してくれる人がいる。だったら僕はピッチャーに挑戦したい。そしてできれば、大成と対等なライバルになりたいんだ……」
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