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「対等な、ライバル」
頭をガーンと殴られたような気がした。
俺はたぶん、今まで無意識のうちに岳のことを下に見ていた。いじめから助けてやった。野球に誘ってやった。だから岳にエースを奪われそうな今、「裏切られた」とか「岳のくせに」なんて言葉が浮かんできたのだ。
そんなのは、昔岳のことをいじめていた奴らと変わらない。俺も結局岳を「弱虫がっくん」としか見ていなかったのだ。
岳はきっとそのことに気付いていた。だから、強くなるために行動を起こした。それが投手転向だった。ただ守られる存在じゃなく、対等なライバルになるため。岳は敵になんてなっていなかった。
……なんだろう、この感情は。
今まで庇護対象でしかなかったはずの岳。そんな彼の言葉に、俺の中で何かが疼いた。
「……分かったよ、岳。でもエースの座は絶対譲らねぇ。奪い取れるもんなら、取ってみろ」
「うん。それでこそ、僕の憧れた大成だ。けど、負けない」
真正面から見つめ合い、お互いの決意を伝え合う。
黒い感情はまだ無くなっていない。でもさっきよりいくぶん小さくなり、心の片隅で居眠りを始めたようだった。
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