10人が本棚に入れています
本棚に追加
0
それは白球がよく映えそうな、綺麗な青空の日だった。
「はははは! こいつまた泣いてやがる! やっぱ泣き虫だ!」
「か、返して……それ、僕のおもちゃ……」
「取り返せるもんなら取り返してみろ! 何もできない弱虫のくせに!」
「そーだそーだ! 弱虫がっくん! あははは!」
近所の公園で砂遊びをしていた俺の耳にそんな声が届いた。
周りを見渡したら、滑り台の近くで同い年ぐらいのやつらが一人の男の子を取り囲んで何かやっている。何かっていうか、たぶん、いじめだ。
俺ははぁと溜息を吐いてスコップを置き、そいつらのところへと向かった。
「おい、返してやれよ。その子のおもちゃなんだろ?」
「は? なんだよてめぇ、急に出てきて。関係ないやつは引っ込んでろ!」
「そーだそーだ!」
「……お前。今から見ること、先生にチクるなよ」
ぼろぼろと泣いているそこのいじめられっ子に、俺は念のため釘を刺す。そしていじめっ子たちをボコボコにした。三人まとめて、泣くまで。
「覚えてろ!」
戦隊モノの敵役みたいなセリフを吐いて、いじめっ子たちは逃げていく。「おもちゃ置いてけ!」と怒鳴ると、捨てるように投げ返された。
「ほらよ、これ」
俺は少し塗装の剥がれたそれ、最近流行っている野球戦隊トウキューナインのフィギュアをいじめられっ子に返す。
「あ、ありがとう」
「お前、隣のクラスの市川岳だろ」
「うん。君は、山口大成くんだよね? すごいなぁ、大成くんは。強くて、カッコよくて、トウキューレッドみたいだった」
「べ、別に。あんなやつら、口先だけのザコじゃん。お前だって、やり返してやればよかったのに」
「無理だよ……僕は大成くんと違って、何もできない弱虫だから……」
うつむいてまた泣き出しそうな様子の岳の肩に、俺はポンと手を置いた。
「だったらさ、俺と一緒に野球やろうぜ!」
「野球?」
「おう! 何もできないってんなら、野球をできるようになればいい! そうすればお前もトウキューナインみたいに強くなれるぜ!」
本音を言えば、ただいつも友達とやる野球の人数が不足しているから誘っただけだった。
それでも岳は、まるでヒーローに出会った時のように目をキラキラと輝かせた。
「うん! 僕、野球やってみたい!」
それが俺と岳との出会いだった。
最初のコメントを投稿しよう!