親子の関係と出会い

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本日の仕事を終え、久しぶりに足取り軽く晃大のお迎えに向かう。 その手に持つ鞄の中には、今日サインをもらったコミックスが大事にしまわれている。 「晃大、迎えにきたよ」 学童保育の教室の入り口で声をかけると、教室の隅でお絵描きをしていた晃大が立ち上がりこちらに向かってくる。 「お父さん、おかえりなさい」 同年代の子と比べて、大人しく引っ込み思案な性格の晃大は外で元気よく遊ぶ他の子供たちと違い、こうして教室の片隅で涼之助のお迎えを待っている。 特に妻が亡くなってからは、なんでも話せるような友達も特にいないようで少し心配している。 「今日は、晃大に凄いおみあげがあるぞ!」 夕方になっても、朝の事を引きずっているのか落ち込み気味の晃大に鞄から取り出したコミックスを見せると落ち込んでいた顔に少し笑顔が溢れる。 「新しい本でたの?」 「それだけじゃないぞ。これを見てみろよ!」 コミックスの表紙の裏に書かれたサインと晃大に向けたメッセージ。 『晃大君へ、漫画家になれるようにがんばれ』 そんな一言を添えてくれたことに親である涼之助は感動した。 人気のある作品を作り出している人は中身もとても優しく人格のできた人なのだろうと感心もした。 サインとメッセージを見た晃大は、目に薄らと涙を浮かべている。 「これ、竹芝ゆずきのサインなの?凄い、僕に頑張れって書いてある!」 「そうだよ。竹芝先生だ。先生も晃大のことを応援してるんだぞ」 「僕、今日もずっと絵を描いてたんだ。一人は寂しいけど…」 「そうか…寂しかったのか…」 「うん、寂しいけどこのサイン見たら寂しさも吹っ飛んんじゃったよ!凄いね!お父さん、どうやって竹芝先生と出会ったの?」 溢れる涙を自分の服の袖で拭いながら晃大はコミックスをもう片方の腕で抱き締める。 「今日、お父さんの仕事関係のお店に来てくれたんだよ」 「凄いね。僕も先生に会ってみたかったな」 晃大は、読むのが楽しみだとその新刊を大切に見つめている。 名刺交換はしたが、個人的に連絡するのは流石に迷惑だろうと思う。 「そうだ!先生にお手紙を書こうか?サインのお礼と漫画の感想を書いたら父さんが送ってやるぞ」 「うん、お礼しないとね!僕、手紙書くよ!」 しかし、晃大のこの喜びをどうしても伝えたくて、編集部にならファンレターとして送ってもいいかなと思う。 それから自宅に帰るまでは、晃大の質問攻めと新刊の漫画の話をしつつ過ぎていった。 このような親子の何気ない日常会話が、今の一番の心の支えだ。 そんな機会をもう一度くれた竹芝ゆずきという存在に出会えたことは本当にありがたい出来事だった。 自宅に帰宅すると早速、手紙を書くと晃大は自分の自由帳から一ページ破ろうとするが、それを涼之助は慌てて止める。 「お父さんのレターセットを持ってくるから待ってなさい」 子供からのファンレターとはいえ、自由帳の破られたページでは失礼だと思う。 涼之助は仕事で使っているお礼状を送る用のレターセットを晃大に使わせてやることにする。 「なんだかお手紙書くのって緊張するね?」 「晃大の思ったことを、そのまま書けばいいんだよ。今日嬉しかったことや漫画で凄いなって思った事を正直に書きなさい」 「うん、分かった!」 真剣な表情で手紙を書き出した晃大の横で、涼之助も今日のお礼を一言添えたくて一緒に手紙を書く。 「お父さん、出来たよ」 しばらくすると、晃大が書いた手紙を見せてくる。 そこには、デカデカと漫画に出てくるキャラクターの絵と、サインありがとうございますの文字が書かれている。 八歳にしては、いつもお絵描きをしてるおかげかよく特徴を捉えている絵だ。 親バカなのかもと少し思ったりもするが、この子の夢が本当に叶ったら良いなと心から思った。 小難しい感想よりも、これはこれで作品が本当に好きなのが伝わるかなと思い自分が書いたお礼状と共に封筒に入れる。 あとは、出版社の住所と宛名を書いてポストに入れるだけ。 「格好良く描けたじゃないか。じゃあ、これは明日必ずポストに投函しとくから、今日はもう晩ご飯にしよう。焼きそばでいいか?」 まだ、育ち盛りの息子のために慣れないキッチンに立ち、簡単に出来る料理はないかと冷蔵庫の中身を見ながら思案する。 仕事柄、美味しい料理は好きだ。 でも、食べるのと自分で作るのでは理想と現実は違ってくる。 「えー、また焼きそばなの…まぁ、いいけど…」 妻が病気で入院し亡くなって、その現実を幼いながら晃大も受け入れてきた。 涼之助のレパートリーの中で定番となりつつあるメニューも晃大は文句を言いつつも受け入れてくれる。
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