心の拠り所

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夕食後、ダイニングでは悠介と陽次朗と拓実でアンケートやファンレターを一枚一枚読んでいる。 弘夢はテストが近いのか夕食後はすぐに部屋に戻り勉強をすると言っていた。 どうやら、テストが近いらしい。 「あ、この手紙は…」 ファンレターの中にその手紙はあった。 いかにも子供が描いた絵だが、よく特徴が捉えているように感じるイラストと『サインありがとうございます』のメッセージ。 そいて同じ封筒に同封されていた几帳面な字で書かれた手紙を読み自然と自分の顔がにやける。 「どうしたの。そんなに嬉しいこと書かれてたの」 拓実が悠介の背後に周り手にしている手紙を覗き込む。 「この前、仕事先で出会った人とその息子さんからお礼状が届いたんだ」 「サインなんてしたんだ?」 「あぁ、今回は頼まれてどうしても断れなかった」 「へー、これ今回のコミックスの表紙の絵じゃない?」 拓実が興味を引かれているのは息子の晃大が描いた手紙だった。 「八歳の男の子が描いたみたいだぞ」 「八歳か可愛いだろうな。一生懸命描いたのが伝わってくるよ」 「本当によく描けてる。八歳にしては上手だよな」 会ったことがない子供の絵だが、漫画家を目指していると聞いた通り普段から描き慣れているのが分かるぐらい上手に描けていた。 「なんだか自分のことのように喜んでない?」 拓実は、悠介の表情を見て何かを感じとたのか鋭い問いを投げかけてくる。 「一目惚れしたんだ…」 拓実の質問に隠してもすぐにばれるだろうと思い悠介は正直に今の自分の状態を話すことにした。 「え、八歳の子供に?」 「違うよ。こっちを見ろよ!」 広大の手紙と同封されていた涼之助からの手紙を拓実にわたす。 しばらくその手紙を読み耽る拓実。 読み終えると、微妙な顔をして悠介を見た。 「奥さんに先立たれたノンケの男に惚れたの?」 「そう、不毛だと思うか?」 「不毛とは思わないし真剣なら応援したいけど、もう一度会う予定はあるの?」 「ないけど、作る。名刺はもらってるしメールしてみようと思ってる」 またあのカフェでもいいし、次に龍之介に会えるチャンスが巡ってきたらアタックしてみたい。 「おいおい、恋バナか?俺も混ぜろよ!」 それまで、蚊帳の外で聞いているのか聞いていないのか分からなかった陽次朗が話に混ざりたがる。 「陽次朗は、人の恋バナ茶化しそうだから駄目!」 「何言ってるんよ。拓実。俺が十数年らいの親友の恋を茶化すとでも言うのか?」 拓実の厳しい指摘にもめげず、俺にも見せろと拓実の手から手紙を奪い取った。 「もう、いつもそうやって強引なんだから…」 「なに言ってんだ。こう言うのは俺みたいな強引さも時には必要なんだよ!」 軽い口喧嘩のような会話をする二人だが、その強引さも嫌いになれないと思っているだろう拓実とそれを分かっている陽次朗。 悠介はイチャつくなら二人の自宅でやってくれといつも思っているが、何度言っても聞く耳を持たない陽次朗によって一笑されてしまう。 「まだ、俺の一目惚れで始まってもいない関係なんだからお手柔らかに頼むぞ」 「なんだよ。出会って片方が恋に落ちてる。それは、もう関係が始まってるのと同じなんだよ」 前妻と別れて十年。 漫画と子育てに追われて自分の恋など二の次三の次にしてきた節のある悠介は、陽次朗の言葉に耳が痛いなと感じつつも苦笑する。 「それじゃあ、こんな俺の恋バナでも聞いてもらおうかな…」 詳しく聞きたそうな二人に後押しされ、悠介は龍之介との出会いからどんな気持ちで今考えているのかを話すことにした。
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