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思わず聞き返すと、カケイ(夫)は舌打ちした。
「こっちにだってさぁ、色々事情があるでしょ。もともと動物を飼ってる人たちは引っ越すからって、ペットを置いてけないじゃん。そしたら連れてくるしかないじゃん。なら捨てろっていうのかな、あんたは。ひどいなー、ああそうか、あんた人じゃないもんな」
「それは議論のすり替えです。規約の禁止事項については、入居前に同意していますよね」
「いいでしょ、ネコくらい!」
カケイ(妻)までが居直りはじめる。私はかぶりを振った。
「規約は規約です。それにお宅のネコ、土地の動物を襲っているのですよ」
「あのネズミみたいなやつだろ。害獣が減るならいいじゃないか」
「問題は生態系のバランスです。害があるのはネコの方です。本当に対応する気がないのですか? ……ならば仕方がない。規約に従い、駆除するしかありません」
「駆除だって!」
カケイ夫妻は顔色を変えた。
「きさま、罪もない生き物を殺すつもりか。動物愛護の心はないのか!」
私は呆れ果ててしまった。罪がない? この星の在来種を食い殺す動物を持ち込んでおいて、何を言うのか。だが私が口を開く前に、カケイ(夫)は腕を振り上げた。
「規約だの何だのえらそうに、この……エイリアンめ!」
両手に何か握っている。地球人の文化を学んだ私には、それがゴルフクラブとかいう道具だとわかった。
振り下ろされたクラブを、私は長い尾で弾き飛ばした。
と同時に、折りたたんでいた両脇の腹脚を広げて計四本の腕でカケイ(夫)を取り押さえる。それを見たカケイ(妻)はかん高い声を上げて逃げようとした。だが大きく開いた私の口から、鋭い舌脚が飛び出して彼女を捕えた。
「異星人とは、よく言う」
口がふさがってしまったので、私は後頭部の気門を使ってひとりごちた。
「地球から移住してきたのはあなたたちでしょうが」
しばらくその場で待っていると、カケイ夫妻のネコが散歩から帰ってきた。地球人とは似ても似つかぬ私の姿に戸惑っていたようだが、用意していたエサ(にゅるにゅるして生臭い)を出してやると大喜びですり寄ってくる。
私はネコをケージに押し込み、上司へ連絡した。
「星間移民受け入れ特区・南地区委員のウミョウグルルゥワアッホイです。やはり、地球人がペットを連れていました。これから検疫所へ運び、地球への送還手続きをいたします。ええ、はい。地球人の方は規約どおり駆除しました。後処理の手配をお願いします」
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