カルガモは笑わない

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「やだもん、転校なんて」  ルカが不満げに反抗しても、ママは聞いてくれない。 「めそめそベショベショしないでちょうだい」  冷たくそう言われるだけだ。  これでもう何回目だろう。ママは何度言っても直してくれない。ルカはまだプライマリースクールの5年生。なのに、通った学校は片手じゃ足りない。この引越し魔。 「だって。エミリやアリスやショーンと離れたくない」 「だから友だちや仲良しを作るなって言ったでしょ」  ママの言うことは変だ。普通は「お友だちをいっぱい作りなさい」と、大人はそう言うものだと、ルカはアリスから聞いて驚いたものだ。 「ねえお姉ちゃん……おなかが空いたね」 「うん。ね、お姉ちゃん」  弟が2人と、その下に妹の双子。4人ともがルカを見つめる。笑うことのないママが怖いのだ。  ルカだって、いつも氷穴みたいなひんやり感を出しているママが苦手。いつも髪を留めている蝶々の髪飾りが似合うきれいな人だから、よけいに。 「フン。出かけてくるわ。ルカ、あんたこれで何とかしといて」  ママはテーブルにでん、とお札を一枚置いて出かけてしまった。弟たちがぐずりだすと、いつもこうだ。ごはんを作ってはくれない。  そのたびルカは、それで買える野菜カスを片栗粉とかで嵩増しした謎の料理を作り、みんなで分ける。  食べたらすぐに寝る。そうすれば起きたときにはおなかが減っていたことなんか忘れてしまうから。  
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