カルガモは笑わない

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 結局、アリスたちとお別れして、また全然知らない場所へ引越した。子どもは親についていくしかない。  ママが選ぶのはいつも街外れの一軒家だ。子どもが多いとうるさいから嫌がられるせいだとか。  それまでは壊れかけの家が多かったけど、今度はちょっとおしゃれな洋館だった。 「お城みたい」と、ルカも弟妹たちもキャッキャとはしゃいだ。小さな庭もついていて、生け垣の隙間から外に出ると、川べりが近かった。  ルカはときどきそこから川へ散歩に出た。  転校、転校、転校。  でもルカは慣れてしまって、というか、元々新しい顔ぶれの中でも平気で、浮きもせず、悪目立ちもせず、誰とでも気軽に話せるタイプだった。  だからなのか、「友だちを作るな」は無理で、いつも親切にしてもらえるし、おしゃべりにも花が咲く。なのに。 「学校の行き帰りに寄り道するのもやめて。どんな悪い人がいるかわからないでしょ」  ママが心配するのもわからなくはない。ルカだって新聞くらい読めるから。  最近、行方不明事件が多いのだ。人が干からびて消えた、などと変な目撃証言もあり、物騒なのは確かなんだけど。  それでもルカは、大勢でかけっこに夢中になったり、アイスを食べに行ったりを繰り返した。  業を煮やしたママは、今回の引越しではルカに転校手続きを取ってくれなかった。「学校なんか行かなくても、あんたは頭がいいから大丈夫」と参考書を山ほど渡された。  弟、妹たちはかわいいし、面倒を見るのも嫌いじゃない。でも、ずっと家の中ばかりじゃ息が詰まる。他にも居場所が欲しい。これまでは学校がそうだったのに。  ママとは会話がすれ違うし、弟妹たちはルカの真似ばかりするだけで、ルカは何だかいつも一人な気がしてしまう。  川べりは絶好の逃げ場所だった。天気のいい日は、川面がきらきらお日様に反射していた。雨が降ると、葉っぱも川も雨粒も、みんなして合唱しているみたいだった。くもりでも、さわさわと空気が流れてゆくのを肌で感じられる。  何かが光った。川じゃなく、小さな何かが、土手の向こう側で。  ルカはそれを目指して走った。そして、たどり着くと立ちすくんだ。  そこには、その光るものを持った、ルカと同じくらいの男の子がしゃがんでいたのだった。
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