2人が本棚に入れています
本棚に追加
***
新しいクラスには、半日あれば馴染んだ。自分で言うのもなんだが俺はそういう人間である。新しい環境はいつだって楽しい。知らない人と喋るのは新鮮味があって嬉しい。とりあえず、たまたま隣の席になったやつ、前後ろの席になったやつ、かたっぱしから話していけばそれでいいのだ。
で、岸間翠はどうかというと。
「あ、あの……」
グループワークの時、彼女の方から僕の班に声をかけてきてくれた。僕の班が男女まぜっこぜだったので話しかけやすかったのだろう。
「あ、天津風、くんの班。入れてもらっても、ええ?」
「おう、いいぜ。みんなー、岸間さんも入れてくれー」
俺がこう呼びかければ、みんなNOとは言わないと知っている。そして類は友を呼ぶとはよく言ったもので、俺の友達も俺と同様、新しい子や異性に物怖じしないタイプが揃っていた。同じ班にいるのも、乱麻をはじめとしたそういうメンバーばかり。
すぐにいいよー、と返事がきて、翠もほっとした様子だった。その日は道徳の授業で、教科書に載っている物語を議題にみんなで話し合うという内容だった。
翠はあまり積極的に意見を言う方ではなかったが、時々思いがけない視点で話をしてくれた。俺はそれが嬉しくて、ついつい何度も翠を褒めてしまい、乱麻にどつかれることになったのだった。
彼女はあまり校庭で遊ぶタイプではないようで、ドッジボールなどの誘いには乗ってこなかった。けれど誘うといつも“ありがとう”と嬉しそうな顔をするので、俺はいつも彼女を必ず誘うことにしたのだった。
「あのさ、天津風くんさ……」
ある時、翠の元クラスメートらしき少女の一人がこんなことを言ってきた。
「あんまり、岸間さんとお話しない方がいいと思うんだけど」
「なんでだ?」
「気にかけすぎ、っていうか。その、天津風くんが優しいのは知ってるよ?でも、天津風くんモテるし、だからその……変なこと言う子もいるっていうか」
「変なこと?」
「……岸間さんのことが好きだから構ってるんじゃないの、みたいな。嫌でしょ、そういう噂立てられるの。ただでさえ相手は“あの”岸間さんだし……」
あの、を強調するあたりが嫌なかんじだった。
彼女は本当に、俺のことを心配して言ったつもりかもしれない。けれども俺からすれば、“なんじゃそりゃ”にしかならない話だ。
「男が女の子心配して声かけたら、すぐ好きだのなんだのって言うのはどうかと思うけど?」
そういう発想が、本当に嫌なのだ。
なんで異性だと、普通の友達にならないみたいな考えしかできないのだろう。純粋な心配や友情を、よこしまな目で見られないといけないのだろう。
「俺、クラス全員と友達になるって決めてんだ。岸間さんはもちろん、あんたとも。だから、そういう考えは捨ててくれると助かる。もしあんたに変なこと言った奴がいるなら伝えてくれ。人に言わせないで、直接俺に文句は言いに来いってな」
「……ご、ごめん……」
彼女はそれ以上、何も言わなかった。
きっと本当に空気が読めてないのは、俺の方なのだろう。それでも関係ないと思ったのだ。
俺は俺だ。俺なのだ。他の誰かに、コントロールされるいわれなんてない。
正しいと思うことを貫けばそれでいい。大好きな父さんだってそう言ってたのだから、きっと間違っていないはずだ。
最初のコメントを投稿しよう!