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紬さんも長いこと、楽しい行事ほど雨が降る原因があやめさんにあるということがわかっていなかったが、小学校高学年くらいになると、さすがに気が付いた。
そして彼女は幼稚園からの行事を振り返り、あやめさんの参加・不参加で雨が降った確率を表にし、あやめさん相手に研究成果を披露した。
『更に私は、この研究で興味深いことに気付いたのであります』
『それは何でしょうか、先生』
紬さんが言うと、あやめさんが合いの手を入れた(※この時、紬さんもあやめさんも、研究者ごっこにひどくノリノリだったことは断っておく)。
『それは、あやめ君が楽しみにしていない行事ではこのような現象、つまりあやめ雨女現象が起こらないということであります。あやめ君が楽しみにしている行事ほど、雨が降るのであります』
小学生の紬さんは、胸を張って答えた。
『あやめ君は運動が苦手であります。そして運動会やリレー会では雨が降らないのであります。なので、学校でもあやめ君が雨女ということに気付いている人は、いないのであります。報告は以上であります』
『……えええええ』
あやめさんは、紬先生の発表を全部聞き終わって、ようやく吾に返った。研究者ごっこに興じてる場合ではなかった。
紬さんの研究でそれに初めて気付いたというのは、あやめさんの生来のうっかりのせいにしても、正直この結果は、あやめさんにとって衝撃だった。
じゃ、私、この先も楽しみな行事は、雨と共に生きるしかないってことじゃん。
そう言うと、紬さんは気の毒そうな顔をして、そういうことでありますと肯定した。
やがて中学生になった。そうなると子供の頃に比べて、行事というのは、楽しみではあるものの、そこまで期待を込めるかというと、それはちょっと微妙なことになってくる。元々がインドア派ということもあり、楽しみで仕方がない行事というのは、家族でも学校でもほとんど無くなった。
そんなわけで、中学生になると、あやめさんの雨女現象もすっかり弱まって来た。
そして三年生の修学旅行は、なんと丸々、曇天で済んだのである。
以来、あやめさんも紬さんも、雨女現象のことはすっかり忘れていた。
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