12人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
まだ梅雨には早いはず。
にもかかわらず、嶽南高校環境美化委員会の月イチの除草作業は、これでもう三回目の雨天順延となる見込みだ。
一年C組の環境美化委員、永塚あやめさんは、集合場所である南校舎昇降口からザンザン降りの雨を眺めながら、やれやれと溜息をついた。
だいたい、こういうのって、雨天中止じゃなかろうか。雨天順延って、おい。
しかしながら、環境美化委員会、略して環美の顧問山川先生、略してヤマセンの情熱対象のひとつが、この校内除草作業なのだ。
草が伸び伸びしているような校舎では生徒が伸び伸び育たない、というのがヤマセンのゆるぎない信念であり主張である。
その上、この雨では雨天順延も何も、そうなるしかないのだが、ヤマセンがやってきて「じゃ、来週の今日集合な!」と宣言するまではいなくてはならない……ということに、表向きはなっている。
そんなわけで、あやめさんは草取り道具を手にここに立っている。が、他の環美委員もいるにはいたが、明らかに数が少ない。ほとんとがサボりだろう。
そもそもが、この環美委員は嶽高生にとって、断トツに不人気の委員会だった。
原因は言うまでも無くヤマセンの除草作業に対する情熱なのだが、入学して一週間もたってない委員会決めのHRで、あやめさん以外の級友はそれを知っていたに違いない。
その時点であやめさんは情報収集においてクラスメイトに一歩遅れを取っており、気づいたら彼女は環美となっていた。
そして今日も、ほとんどの人がヤマセンの宣言を聞く気が無いという情報を入手し損ね、ここに立っている数少ない環美委員の一人になっているのだった。
ただ、あやめさんが今日その情報を手に入れたところで、ここに来なかったかというと、そうでもないかもしれない。
彼女は律儀で義理堅く、ヤマセンがいくら押しつけがましく彼女にとって苦手な先生であろうと、集合場所に数えるほどしか生徒がいないというのは気の毒じゃなかろうか、一人でも多い方がいいんじゃないだろうか、そんなことを考えてしまう人間だった。
「永塚さん、やっぱいたんだ」
呼びかける声がして、あやめさんは振り向いた。
「高田君」
「町野さんも来るって。永塚さんきっと来てるだろうからって言ってた」
「そうなんだ」
最初のコメントを投稿しよう!