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帽子の男は丸山と勢いよくぶつかったはずみに、丸山の肩にかけていたバッグを奪った。そのまま猛烈なスピードで走り出すと、あっという間に遠ざかってしまう。
「ちょ、ちょっと!!ひったくり!ひったくりですー!」
子どもたちと写真を撮っていた黒谷は、丸山の声がしたのを聞きつけた。
「(丸山さん…!?ひったくりだって?)」
黒谷は走り去る帽子の男を見付けると、子どもたちに謝りながら、椅子の間を縫って走り出した。長身のせいもあり、ストライドが大きいため、スピードはぐんぐんと上がっていく。屋台の前を歩いていた人たちは、なんだなんだ、と立ち止まり、走る二人の男を見送っている。
「なんだ、こいつ!はえええ!」
帽子の男は自分の数メートル後方にいる黒谷の姿を見て、声を上げた。黒谷は声を発しないまま、男を全速力で追いかける。そして、帽子の男の背中に手をかけると、そのまま、押し倒して地面に組み伏せた。
「くっそ!!なんなんだよお前!」
黒谷は帽子の男から鞄を取り返す。騒ぎを聞いた照井も駆けつけ、帽子の男は警察に引き渡されることになった。黒谷が立ち上がった時、辺りには捕り物を見物していた客が輪を作り、一斉に拍手をする。
「あんた、すごいね!俺びっくりしちゃったよ」
「クロウラー、かっこいい!」
子どもたちはクロウラーに駆け寄り、抱っこや握手をせがんでいる。黒谷は輪の後方へやってきた丸山に鞄を手渡した。
「あ、ありがとうございます」
黒谷は丸山に「(よかったですね)」という気持ちを込めて親指を立ててみせる。丸山が言葉を続けようとしたとき、子どもたちが黒谷を追いかけ、取り囲んだ。黒谷は笑顔を向けながら、子どもたちの相手をしに戻っていく。その後ろ姿を見た丸山の目には、クロウラーがまるでどこかのナイトのようにきらきらと輝いてみえたのだった。
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