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菜の花祭りが終わった後、クロウラーの公式アカウントはフォロワーが3000人ほど急増化した。それも嬉しい出来事だったが、黒谷には、それ以上に驚いたことがあった。丸山がクロウラーのグッズを身に付けて出勤するようになったのだ。トートバッグにはクロウラーの缶バッチやぬいぐるみがぶら下がり、スマホの待ち受けもクロウラーだ。
菜の花祭りが終わった後も、話題はクロウラーがひったくり犯を捕まえたことでもちきりで、丸山は何度も熱っぽく黒谷にいかにクロウラーがかっこよく、頼りになったかを語るのだった。その話を聞くたびに、黒谷はむずむずとして落ち着かない気分になり、その場から立ち去りたくなってしまう。
「でね、あっという間にひったくりに追いついて、こう、押し倒したわけです!はーん、かっこよかった…」
「丸山さん、その話5回目ですよ」
昼休みに近くの食堂で4人掛けテーブルに座り、ご飯を食べていた4人は、相変わらず丸山の話につき合わされている。船岡が冷静に丸山に突っ込みを入れ、黒谷はぼろが出ないように黙ってそばをつついている。
「もしかして、丸山はクロウラーに恋でもしちゃったんじゃないの~?」
と猪熊は丸山の頬をつねった。丸山の隣に座っていた黒谷は、驚きのあまりすすっていたそばを鼻と口から噴出させる。
「うえっ、げほっつ、げほっ‼」
「ちょっと、きたなっ!ちゃんと拭きなさいよね~、黒谷」
「こここ恋なんてしてませんよ!!わ、私はただお礼が言いたいだけで…」
どーだかね~、とか、怪しいな~と猪熊と船岡にからかわれ、丸山は耳まで真っ赤になっている。
「でもさ、クロウラーの中って誰なんだろうね?」
「はい…お礼をしたいから、って言っても課長は教えてくれなかったんですよね」
「案外、すぐ近くにいる人だったりしてね」
「黒谷くんってそういえばクロウラーと背格好が似てるね」
と丸山が笑う。
「まっさか~、黒谷がクロウラーなわけないっしょ!」
と猪熊が黒谷を箸で指さす。何も答えず、黒谷は肝を冷やしながら、黙々とそばを食べ続けるのだった。
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