烏川町 町役場地域課クロウラー担当 黒谷工

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 夏の一大イベント、烏川町工芸祭りまで、黒谷はイベントに引っ張りだこだった。ローカルテレビの出演に、特撮番組とのコラボイベント、ヒーローショーの出演、握手会など細かなイベントをこなす日々だったが、驚いたのは、そのどれもに丸山が参加していることだった。  平日のイベントであれば、丸山は休みを取って参加し、双眼鏡を持ってイベントを観覧している。握手会で、丸山に「かっこよくて大好きです」と言われたときは黒谷は呼吸が止まりそうになったが、自分ではなく、クロウラーに言われてるのだと思い直し、なんとか平静を保ったのだった。  しかし、少し黒谷には気がかりなことがあった。このごろ丸山は仕事中もぼんやりすることが増え、簡単なミスを頻発するようになっていた。それも、自分のせいなのかもしれない、と思うと黒谷はなんと声をかけたらいいかわからず、心配することしかできなかったが…。  そして、烏川町工芸祭りの日になった。会場は海辺の直線状の一帯で、ハンドメイドやお菓子のマルシェが辺りいっぱいに開催される。今回は、照井も含めた5人全員が参加するが、黒谷は途中、クロウラーの姿で海辺のゴミ拾いボランティアに参加することになっている。  5人はマルシェの見回りや、広報用の写真を撮ることに専念していた。 「けっこう人が来てにぎわってますね。ね、丸山さん」  黒谷は動物のマスコットが並んだ店を眺めながら、丸山に声をかけた。 「…」 「丸山さん?あ、ほらお客さんだ。邪魔になる前に写真撮ろう」 「え、ああ、ごめん」  黒谷は丸山を促し、写真を撮らせる。だが、丸山の心はここにあらず、といった感じだ。 黒谷が気を揉んでいると、照井がやってきて、黒谷に耳打ちした。 「もうすぐ、衣装を積んだバンが来るから、あっちの本部の方へ行こう」 「はい。…丸山さん、僕、ちょっと課長に呼ばれたから、ここよろしく」
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