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丸山は、こっそりと駐車場に止まったバンを、車の陰に隠れて見ている。窓の向こうで、黒い下着を着た男の人が丸山に背を向けて着替えをしていた。もうすこしでこちらを振り向きそうだが、顔が見えない。
「もうちょっと…、もうちょっとなのに~!」
丸山は車の陰から身を乗り出して、バンの中をよく見ようとした。
「なにしてるんですか、丸山さん」
後ろから声をかけられ、丸山は心臓が凍り付きそうになった。勢いよく後ろを振り向くと、そこには黒谷が立っていた。
「あ…黒谷くん?!」
「仕事中なのに、なんでこんなところにいるんですか」
「えっと…それは…ごめん。クロウラーに会えるかもって、思って」
丸山が急いでバンの方を振り向くと、クロウラーはもうヘルメットをかぶり、顔の判別ができない状態になっていた。黒谷はため息をつく。
「丸山さん、僕ちょっと心配です。最近の丸山さん、全然らしくないですよ。仕事中もぼんやりしてるし、今だってクロウラーのために仕事抜け出すし」
「ごめん…」
と丸山は下唇を噛んで俯く。
「クロウラーを追いかけるのはいいけど、仕事をおろそかにしちゃいけないです。みんな、変だなって思ってますよ。もし悩んでることがあるなら僕でよければ…」
「わ、私、ちょっと頭冷やしてくる」
丸山は駆け出すと、マルシェの方へ向かって走り去っていった。黒谷はその背中を見送る。
バンの中から、クロウラーのスーツを着た照井が降りてきて、黒谷の横に立った。
「ふうー、危なかった。あやうく正体がばれるところだったな」
「すみません、課長」
「いや、いいよいいよ。それにしても丸山さんは最近クロウラーに夢中みたいだね。黒谷くんも複雑だなぁ」
そう微笑んで呟いた照井には答えずに、黒谷は着替えをするためにバンに乗り込んだ。
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