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丸山は激しくむせこみながら、自分が浜辺に体を横たえている事に気が付いた。
「よかった!起きてくれたんですね!!」
丸山の背中に手を回したのは、大きくてごつごつとした黒谷の手だ。オールバックの髪は顔に貼り付き、全身ずぶぬれで、必死に自分を助けてくれたことが分かる。丸山ははじかれたようにあたりを見回した。
「あ、あの子は?」
「大丈夫です。いま、救護所で休んでますよ」
丸山はほっとしたように黒谷の胸に体を預けた。自分よりずっと広くてあたたかい胸に体を預けていると、不思議と安心する。
「なんで、飛び込んだりなんかしたんですか!心配しましたよ」
「ご、ごめん。あの子…海に行こうとしてたのに私が注意しなかったから…」
「…もうこんなことしないでください。丸山さんになにかあったら、僕は…」
黒谷は丸山に覆いかぶさるように力強く彼女を抱きしめた。丸山の鼓動が早鐘のように脈打つ。
「あ、あの…そのスーツ…」
「え?」
「クロウラーって黒谷君だったんだね。私、そんなことも知らずに、ずっときゃーきゃーはしゃいでて恥ずかしいな」
と丸山が照れ笑いを浮かべた。
「すみません、ずっと町長に口止めされてて」
「すごくかっこいい」
「え…でも、中身は僕ですよ?」
「だからだよ。かっこいいよ、黒谷くん。ほんとにありがとう」
と丸山は微笑んだ。黒谷が顔を真っ赤にさせて呟く。
「…丸山さん、ずっと黙っていたけど、僕は、丸山さんが好きです」
「え?」
「これからずっと、僕が丸山さんだけのヒーローになってもいいですか?」
丸山は何も答えずに微笑むと黒谷の首に手を回した。黒谷は幸福感に包まれながら、大きな手のひらで、丸山の背中に手を回した。
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