烏川町 町役場地域課クロウラー担当 黒谷工

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 のろのろと自転車を漕ぎ、着いたのは築うん10年になる、古びた庁舎である。駐輪場に自転車を止め、黒谷はやや猫背ぎみに3階の地域課へ向かう。階段を上がっているとき、後ろから誰かが声をかけた。 「あ、おはよう黒谷くん」 「ま、丸山さん!!おおお、おはようございます」  丸山内子(まるやまうちこ)の姿を見たとたん、黒谷の背筋が定規を差したように伸びる。ショートボブの丸山は、背も目も、手も小さく、ほっぺがぷっくりとしてクリームパンのような頬をしている。若干のんびりした性格で、黒谷とは同期だが、黒谷の方は淡く彼女に惹かれていた。  丸山は大きな段ボールを抱えている。黒谷はおずおずと丸山に手を伸ばした。 「それ、僕が持ちますよ。貸してください」 「え、いいの?ごめんねー」  丸山は段ボールを黒谷に渡してきた。中には何かのパンフレットが入っているらしい。 「なんですか?これ」 「うーん、今度、烏川町でなんか変わった町おこしプロジェクトを始めるんだって。それのパンフレットだと思う」 「え、なんですか?それ。僕知りませんけど…」 「なんか、上層部が内々で進めてるらしくて、町長の肝煎りのプロジェクトとか」  丸山は黒谷の耳にそっと手を当てて耳打ちした。小さな丸山の唇がすぐそばにあり、黒谷の鼓動が脈打つ。 「このパンフレットも、中身は紙でくるまれてて、課長の指示があるまで見ちゃいけないんだって」 「へぇ…」  黒谷は呟くと、よいしょ、と段ボールを抱え直し、3階まで階段を上がりだした。
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