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「おはよー!」
「おはようございます、三輪さん」
ポニーテールに眼鏡の40代女性、猪熊三輪(いのくま みわ)と七三にきっちりと髪を分けた30代後半男性、船岡一彦(ふなおか かずひこ)が何やら机の周りで談笑している。船岡は今年中途採用で入った新人で、前職は保険の営業マンをしていた。
まだ始業時間前なので、談笑はセーフだ。
「今さ、船岡と町長の肝煎りプロジェクトってなんだと思う?って話してたの」
「あぁ、僕たちも朝その話ししてましたよ」
「あたしはさー、B級グルメフェスティバルかなー、とかって言ってたら、船岡が役場で烏を飼うんじゃないか、とかって言うわけ!」
と、猪熊は爆笑しながら船岡の肩を叩いた。
「だって…烏の町なんですし、烏を売りにしたいと思ってるなら、そういうのがあってもおかしくないでしょう?」
船岡は細い目をさらに細めて困り顔をする。
猪熊は笑いが止まらないらしく、船岡の肩をしばきまくっては、
「そんなんうちらが世話するの大変じゃん!!烏ってなに食べるの?からあげ?」
と突っ込みをいれている。
「わかりませんよ…てか三輪さん笑いすぎですよ」
船岡が呟いたとき、始業時間の鐘が鳴った。
「あー面白かった。船岡ってほんとななめ上だよね」
と猪熊が席へ戻り、めいめいが自分の机へ向かった。
席に着こうとした黒谷は、背後から課長、照井 幸次(てるい こうじ)に肩を叩かれた。垂れた瞳が人当たりの良さを醸し出している照井は、黒谷とは対照的な柔和な顔をしている。
「おはよう、黒谷くん」
「あ、課長、おはようございます」
振り返った黒谷の顔を見て、照井が顔をひきつらせる。
「うん、相変わらず君は顔が怖…げほげほ。まぁなんだ、ちょっとこちらへ来なさい」
「はい」
黒谷は照井の後に着いて、会議用の別室へと連れられていった。
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