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朝の連絡で、照井はパンフレットを配り、地域課の職員に今後の烏川町の町おこしプロジェクトについて説明しだした。
夏には、烏川町工芸祭りという巨大マルシェのようなイベントを毎年開催し、来年には新しいショッピングモールを郊外に建設する。そして、クロウラーを使って各地でヒーローショーの開催や、クロウラーと武将隊のコラボ、お土産品の販売、ゆくゆくは特撮番組とコラボしたイベントの開催など町おこしを始めるという。
クロウラーの衣装がお披露目されると、職員は歓声をあげた。
「へー、本格的ですね」
と船岡がアイシールドをこつこつと叩いた。
「ちょっとー、めちゃかっこいいじゃないですか」
と猪熊がクロウラーの全身が載ったパンフレットをひらひらと照井に見せた。
「うん。町長が気合を入れて作ったからね」
猪熊はヘルメットを黒谷の近くへ持っていくと、からかって黒谷の頭にかぶせた。ヘルメットは顔の下半分が見える作りになっており、目の部分は真っ黒なアイシールドで隠れ、顔の判別は難しくなっている。
「お、なかなか似合うじゃん」
黒谷は正体がばれてしまわないよう内心どきどきしながら、ヘルメットを外した。
「ちょっと、クロウラー役は僕じゃなくて、ヒーローショーの役者さんですから」
「あは、だよねー。黒谷がヒーローって顔じゃないし」
「うっ…三輪さん、傷つく…」
丸山はクロウラーのプロテクタ―をじっと眺めて、呆けた顔をしている。
「どうしたの?丸山さん」
「う、ううん。ちょっと、かっこいいなーって思ってみとれちゃったよ」
「え…かっこいい?」
「うん。弟が特撮ヒーローとか好きで、日曜日はいつも見てるから」
黒谷は、丸山の「かっこよくてみとれちゃった」の部分を胸の中で何度もリフレインする。
「(丸山さん、実は僕、僕なんですよ、クロウラーは‼)」
叫びだしたい衝動をこらえ、黒谷はクロウラーのヘルメットを撫でた。羽で切り裂かれた風の軌道をイメージした流れるような形の後頭部。それを撫でていると、自分がヒーローになれるという高揚感で胸がいっぱいになる。
「それじゃあ、今年は町おこしプロジェクトで忙しくなると思うが、クロウラーともどもよろしく頼むよ」
と、照井が話をまとめ、各自、今日の仕事を始めた。
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