烏川町 町役場地域課クロウラー担当 黒谷工

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 黒谷は、数日後の昼休みに照井に呼ばれ、会議室でクロウラーの衣装合わせをした。黒の下着とプロテクターを腹部、腕、足に装着し、ヘルメットをかぶる。プロテクターは意外と軽量で、発砲スチロールぐらいの軽さしかない。鏡の前で姿を見てみると、まさに日曜朝に放送されている、戦隊ヒーローの主人公のようだ。 「ほほー、似合うね、黒谷くん」  照井も感心したようになん度も頷き、スマホで写真を撮っている。 「いや、僕も嬉しいです。ヒーローなんて僕の顔じゃ勤まるわけないと思ってましたから」 「顔が見えないっていいこともあるもんだね」 「それ、どういう意味ですか…」  黒谷はヘルメットを外し、パンフレットに目をとおした。クロウラーは烏の化身という設定で、烏川町の転覆を企む悪の組織、「カラス団」という組織と戦いを繰り広げる。そして、ヒロインのりつこお姉さんという女性を毎回カラス団から助けるというのが、お決まりのヒーローショーのストーリーになっている。 「ところで、ヒーローショーの最中に声をだしたら、僕だとばれてしまうんじゃないですか?」 「ああ、それは大丈夫。クロウラーは喋らない代わりに、りつこお姉さんがしゃべるから。あと、ジェスチャーで会話することになってる」 そうですか、と黒谷は頷いた。 「さっそくだけど、今度の烏川町菜の花祭りでクロウラーをお披露目することになってるんだ」 「え!?それは、ショーもやるってことですか?」 「ああ。さて、それじゃ広報用の写真を撮ろう。はい、親指立てて~」  黒谷は照井に言われるまま、親指を立て、ポーズをとる。照井はスマホで写真を撮ると、SNSにクロウラーの写真をアップした。クロウラーの公式アカウントは、現在フォロワーが1万人ほどいる。クロウラーのデザインを担当した特撮プロデューサーがSNSでクロウラーのことを宣伝し、フォロワーが増加したのだ。 「これからは烏川町のアカウントと、クロウラーのアカウントのふたつで宣伝していくから。面白い写真、撮っていこうな」  黒谷は頷くと、菜の花祭りに向け台本の読み込みと、演技の練習をする日々が始まったのだった。
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