烏川町 町役場地域課クロウラー担当 黒谷工

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 烏川町のハイキングコースとして有名な烏川山近くの公園には5月ごろになると菜の花が一面に咲く。菜の花祭り当日、日よりはうららかで公園中が黄色の絨毯のように色鮮やかだ。  地域課の丸山、猪熊、船岡、照井の面々は、菜の花祭りに訪れた客の案内や、烏川町の宣伝チラシなどの配布、お土産品の販売などを行っていた。黒谷は菜の花祭りの担当にはなっていないが、職員には内密でクロウラー役として参加することになっている。  あたりには家族連れやカップルなどが目立つ。「烏川町役場」と太字で書かれたテントのブースで、山吹色の法被を着た丸山と猪熊はチラシやうちわの配布をしていた。 「いいねー、カップルに家族かー。結婚ってうらやましいわー」 と猪熊はうちわで自分を扇ぎながらつぶやく。 「三輪さん、婚活うまくいってないんですか?」 「この間友達の紹介であった上場企業のサラリーマンは、あたしが40って聞いたら逃げていきました」 「あはは…」  丸山は苦笑しながらチラシを女性に手渡した。 「あたしのことはいいのよ。丸山こそ、黒谷とはどうなのよ?」 「黒谷くんはただの同僚ですよ。あ、でもいい人ですよね」 「うわー、黒谷…頑張れ」 「?」  時刻は12時を回ろうとしていて、今日は真夏日を記録するほど暑い日だった。法被を着た照井が、屋台の並んだ中央広場の方から歩いてきた。 「そろそろ昼休みにしてくれ。屋台があっちにあるから、昼飯、買ってきていいからね」 「やったー!でもあたし暑くて動けない…」 と猪熊が長机に顔を伏せる。 「じゃあ、私がなにか買ってきますよ」 「いいの?ごめんねー。お金は出すから!」  丸山は、はーいと言って肩にトートバッグを掛けると、屋台の方へ歩き出した。 「ヒーローショーもやってるからせっかくだから見てきてくれよ」  照井の声を後ろに聞きながら、丸山は中央広場の方へ向かった。
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