第16章 別れの予感

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多分ベッドでゆっくり落ち着いて眠れてるからだな。とけろりとして言い放つ。それは、確かに。 「わたしといると人の多いとこ滞在できないけど…。世界のどこでもは行けないよ。東京とか、多分無理」 「いいよ。俺も人は少ないとこの方がいい。だってさ、考えてもみなよ。俺のどこが人好き、賑やかで騒がしい場所好きに見える?」 今日いち説得力のある台詞をかまされて、わたしは結局折れた。 「わかった。…でも、今後もお互い遠慮とか無理はなしだよ。本気でここに住みたい、定住したいと思う場所を見つけたら相手がそうでなくても正直に言う。その時点で旅の相方は解散。…それでいいよね?そこはわたしに気を遣わないでよ、絶対」 「わかってる。そっちこそだよ、俺に気を遣う必要ない。一緒にいるのが本当にきついと感じたり耐えられなくなったら、俺の性格的には黙ってないでちゃんと口に出してはっきり言えるんだから。泣く泣く我慢するほどお人好しじゃないよ」 そうきっぱり言われると。確かにちょっと、信憑性が増すなぁ…。 何となく説得されて言葉に詰まってるわたしを尻目に、何故かアスハは珍しく表情の変化を隠しもせずに浮き浮きと立ち上がった。 「よし、そしたら明日から荷物をまとめて出発の準備を始めよう。いよいよ海か?ここからはさほど遠くないよな?」 「多分。…事務所で訊いてみようか。地図とかあったら、写させてもらうといいかも」 町を出たくないどころか、出発の目処がついたらむしろ意外にも元気が出たようだ。 悟りきって冷めてるように見えてもこいつもまだ若い男の子だから、変化のない生活は退屈なのかな。そう考えたらまだまだここで骨を埋める気なんてないっていう主張も、わたしに気を遣ったってだけじゃなく案外本音なのかもな。と思えば少しこちらの気持ちも軽くなる。 わたしたちは笑顔になって二人分のカップをシンクに運んで貯め水で洗って片付けた。 それからまだ火の灯ったランプを手にすると、海でしたいことや見てみたいものについてあれこれと想像を巡らせては口にしながら、廊下を並んで進み寝室へと向かった。 《第9話に続く》
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