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「仕事……まぁ、そうなんだけど」
「あぁ、バイト代、足りてる? 金額増やそうか? オシャレもしたいだろ?」
Tシャツにデニムという装いが年頃にしてはシンプルだと言いたげに。
私だって3人でご飯を食べると分かっていれば、少しはおめかしをしたよ。お兄ちゃんのマンションへ通うのに女性を出したらいけないと思ったから。
「大丈夫。これ以上、負担になりたくない」
どうしてこんな言い方をしちゃうんだろう。
「瑠美にね、飲み会に誘われてて。そういう場では私もきちんとメイクもする。キレイな服も着るし」
「そうか、はは、楽しんできてね」
望む言葉を貰えなくて唇を噛む。自分勝手だ、そんなの分かっている。
お兄ちゃん自身がお酒を飲む場に沢山行っている中、私の行動を制限するはずない。それでも行くなと言わせたかった。
なによりお兄ちゃんは私が言って欲しい言葉を承知しながら口にしない。それが物足りないんだ。
無言で坂を上りきり、マンションが見えてくる。
「ふぅ、久し振りに歩いたけどきついなぁ。果穂ちゃん、いつもありがとう」
徒歩で通う私を労う。でも感謝の矢印は労働に対してで私個人へ向けられておらず、モヤモヤする。
「和樹お兄ーー」
「あっ、正樹から連絡入ってる」
発言がかぶってしまい、お兄ちゃんが傾げる。
「ん? どうした?」
「う、ううん……なんでもない」
「そう? じゃあ行こう。正樹がエントランで待ってるみたい」
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