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甘いため息ーーイケないお兄さんは好きですか?5
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ーー私は夢を見ていた。何故、夢なのか気付けるかと言うと、目の前の場面を幾度と擦り切れるくらい見たから。
喪服姿の私と和樹お兄ちゃんが煙になっていく2人を見上げ、話をしている。
「はぁ、私、大学を辞めようかな」
ため息と弱音をこぼしても、空は溶け込むように青くて。もしも今日が雨なら貰い泣き出来たのに。
「うーん、それは早計じゃないかな? 言い方が悪いけれど、果穂ちゃんは正常な判断ができる精神状態じゃない」
「だって、この先どうやって生きて行けば良いのか分からないの!」
「うん、それも今すぐ出せる答えじゃないね。果穂ちゃんには両親を失った悲しみを感じる時間が必要だと思う」
お兄ちゃんはあえてゆっくり、間を取って私へ言い聞かせた。勉強を教える際、テストに出る範囲を復唱させるように。
「お金だって掛かるだろうし」
「……なるほど」
少し間が開く。
「じゃあ、心のケアは丁寧にしていくとして、金銭面の不安は俺がなんとかしよう。これで金の件は解決だ」
「え?」
「俺が果穂ちゃんへ経済援助をするって意味」
お兄ちゃんは就職を機に実家を離れ、私も大学進学と同時、ひとり暮らしをスタートさせた。
私達はお正月やお盆等、長期休暇のタイミングで顔を合わせていたものの、学費を出して貰うほど親密な関係かと問われればーー。
「いわゆる、あしながおじさんって感じ?」
「いやいや、お兄ちゃんはおじさんじゃないし!」
「それはありがとう。果穂ちゃんからしたら俺は十分おじさんだよ、俺は」
ちっとも自虐になっていない。お兄ちゃんは幼馴染、家庭教師、なにより初恋の相手である。そんな人におじさんなんて、とんでもない。
私が実家に帰省する理由はお兄ちゃんと会いたいーーなどと、本人は知る由もなく。
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